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あなたはマンガ家という職業にどんなイメージを抱いているだろうか?夢がある。アシスタントと一緒に朝まで徹夜する。編集者が遅れた原稿を取り立てに来る――。
確かに、それがふつうのマンガ家像だ。しかし、三田紀房は正反対の持論をしばしば展開する。
「徹夜はしない。でも締め切りは守る」「マンガ家になったのはお金のため」。
びっくりするかもしれないが、理由を聞けばきっと納得し、あなたの仕事や勉強にも役立つ話だと気が付くだろう。
さっそく、三田流マンガ論をお聞かせしよう。

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【マンガ論 Vol.1】「すべてのマンガは個人商店だ!」

・人気店を分析せよ

・競合を回避する

・世の中の「空席」を探せ

私のマンガは、空席をみつけて成功してきた。例えば大ヒットとなった『ドラゴン桜』。いまでこそゆとり教育の弊害が叫ばれているが、連載当時は個性を尊重したのびのびとした教育が理想とされていた。そんな“ゆとり教育全盛時代”に、あえて主人公につめ込み教育を施し、東大を目指させる設定にした。

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世間みんながゆとり教育を絶賛しているとき、逆の意見を言う人間は少ない。そこは世間の「空席」になっている。私は当時から、ゆとり教育の理念は間違っていないとしても、勉強の基本はやはりつめ込みだと信じていた。実は心の底で同じように思い、風潮に乗り切れない人は多かった。その「言いたいけど言えない意見」を先取りしてマンガに描くことで「よくぞ言ってくれた!」というカタルシスと共に人気を得たのである。

連載していた雑誌『モーニング』の中でも、受験マンガという分野は「空席」になっていた。しかも、読んでもらえればわかるが『ドラゴン桜』は、「鬼監督が主人公たちを鍛え上げ、全国制覇を目指す」というスポ根マンガの王道の手法をとっている。「受験×スポ根」というマンガは他になく、雑誌の中で独占的なポジションを得ることができた。

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「空席」を意識してテーマを探すマンガ家は少ない。いや、ほとんどいないと言っていいのではないか。
多くのマンガ家が自分の書きたいテーマ、関心のあるテーマを追いかけている。

私がこういう思考をできるのは、マンガ家になる前に実家で衣料品店を営んでいたからだ。
実際、マンガと個人商店は共通点が多い。マンガ誌はさながら巨大なショッピングモールで、いろんなお店を集めて顧客を引き付けようとする。新しいマンガ連載を始めるのは、ショッピングモールに店を出すようなものだ。

あなたがショッピングモールに新しく出店するとしたら、何を意識するだろうか?

まずは、いま流行っている店を見に行くだろう。そして人気の理由をあれこれ考える。例えば若者が多い渋谷では、最新のトレンドに乗っていて、かつ値段が安い店に人が来る。銀座では真逆で、値段が張っても質が良く、伝統的なブランドが好まれる。このようにショッピングモールごとの消費者ニーズ、つまりマンガ誌の読者層を正確につかむことが大切だ。

次に意識すべきなのは、競合の回避だ。
同じような店が既にショッピングモールに入っていたら、客足が分散するし、対抗するために品ぞろえをめちゃくちゃ増やすとか価格を下げるとか、無理をしなくてはいけない。わざわざそんなことをするより、ショッピングモールに入っていないお店や業態を選ぶほうが有利に顧客を集められる。

その2つを踏まえ、消費者のニーズをつかんだとき、人は往々にしてある間違いを犯す。
「いまはAが流行っているから、Aの路線でいこう」と、安易にブームに乗ってしまうのだ。一見、失敗がなさそうに思えるこのやり方は、実際はリスクに満ちている。流行はあっという間にピークを迎えて飽きられ、商品寿命も短命に終わってしまう。

例えばギンガムチェック柄が流行り、ファッション誌で取り上げられ街中でみんなが着るようになる。その時点で、流行はただの「残像」だと思ったほうがいい。立ち上がったときの熱気は失われ、後から追いついた流行に疎い人々に消費されながら、徐々に消えていく。ブームが去った後のファッションは「恥ずかしいもの」でしかない。

読者のニーズをつかみ、流行を知ったうえで「空席」を探す。すぐに満席になる「人気席」をあえて選ぶ必要はない。成功したければ世の中の流れをよく見て、あえて「逆」を張るのだ。

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■三田流漫画論シリーズ

【vol.1 三田流マンガ論】成功するには、あえて「空席」を狙え!
【vol.2 三田流マンガ論】どうせやるならトップを目指せ!
【vol.3 三田流マンガ論】ベタな表現を恐れるな!
【vol.4 三田流マンガ論】徹夜は一切しない!
【Vol.5 三田流マンガ論】クリエイターは「凄い」人たちではない。ただ「やった」人間だ!
【vol.6 三田流マンガ論】私は、締め切りを絶対に破らない!
【vol.7 三田流マンガ論】ストーリーとは、「対立」とその「解決」である
【Vol.8 三田流マンガ論】アイデアは考え出すものじゃない
【Vol.9 三田流マンガ論】マンガを描き続けることが最優先。些末なこだわりは持たない

【Vol.10 三田流マンガ論】いい仕事したけりゃ、自己管理しろ!

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