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あなたはマンガ家という職業にどんなイメージを抱いているだろうか? 夢がある。アシスタントと一緒に朝まで徹夜する。編集者が遅れた原稿を取り立てに来る――。確かに、それがふつうのマンガ家像だ。しかし、三田紀房は正反対の持論をしばしば展開する。「徹夜はしない。でも締め切りは守る」「マンガ家になったのはお金のため」「アイデアを得る努力をしない」。びっくりするかもしれないが、理由を聞けばきっと納得し、あなたの仕事や勉強にも役立つ話だと気が付くだろう。さっそく、三田流マンガ論をお聞かせしよう。


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【マンガ論 Vol.8】

・アイデアのために悩むのはムダ
・日常の中にネタは転がっている
・身近なことを現金化する

4半世紀以上マンガ家を続けていると、「アイデアが枯渇しませんか」と聞かれることがある。いつも不思議に思うのだが、そもそもアイデアというのは、じっくり考えたり、ひらめくのを待ったりすれば出てくるものだろうか?

私はこれまで、アイデアを出すために努力したことがない。
マンガのネタを考えるために本を読むとか映画を観て研究するということは、一切しない。そうやって得た知識をアイデアにつなげようとしても、ろくなものにならないからだ。ましてや、ひらめきが訪れるのをひたすら待ったって、素晴らしいアイデアなど出て来ない。

「アイデアは考え出すものではない」というのが、私の持論だ。
では、どうすればいいのか。難しく考える必要はない。ネタは身近なところにいくらでも転がっている。
例えば、『インベスターZ』で、さくらちゃんのお母さんが起業する話が出てくる。彼女は、街の喫茶店を他人から受け継ぐ「居抜き起業」という形で喫茶店を始める。

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実はこれは、たまたま私がテレビで「蒙古タンメン中本」のエピソードを見たのがきっかけで思いついたアイデアだ。「蒙古タンメン中本」の社長の名前は白根さんで、中本さんじゃない。閉店しようとしていた先代(中本さん)のラーメン屋を、その味の熱烈なファンである常連客の白根さんが受け継いでよみがえらせたのだ。これは面白い!と思って、さっそく「居抜き起業編」として、マンガのネタに取り入れた。

「居抜き起業編」はコチラから読めます!

☆ネタ元になった「蒙古タンメン中本」起業のエピソードはコチラ

昨年最終回を迎えた甲子園マンガ、『砂の栄冠』も身近なネタから生まれた。「高校球児がファンの老人から1000万円を託され、甲子園を目指す」という異色の設定は、スポーツ新聞のベタ記事から着想を得たものだ。

☆マンガ2(1)

☆マンガ2(2)

☆マンガ2(3)

それは、2007年の夏の甲子園で優勝した佐賀北高校についての記事だった。毎日毎日、野球部の練習を見に来ては「今年のチームは甲子園なんて行けない。もし本当に甲子園に出られたら100万円やる」とヤジを飛ばすおじさんがいる。その言葉に奮起して練習し、甲子園出場を果たしたという内容だった。甲子園出場が決まってからおじさんはぱったり来なくなったそうで、記事ではチームから「お金はいらないから応援に来て」と呼び掛けていた(笑)。それを読んで以来、いい話だからどこかで使いたいなと思っていて、『砂の栄冠』で形にすることができた。

こんな話もある。以前、知り合いのつてで、マンガ家になりたいと言って東京に出てきたものの10年経っても芽が出ないという若者の相談に乗ったことがある。作品は確かにぱっとしないのだけど、「ふだん何やっているの?」と聞くと、特に趣味はないが、しょっちゅう小さな動物園にダチョウを見に行くと言う。私はすかさず、「その話、面白いからそのままマンガに描きなよ」とアドバイスをした。

このように、面白いネタは身の回りにたくさんある。人と話をしていても、テレビを見ていても、いろんなネタが転がっている。面白いネタがあればすぐに描けばいい。安易だとか手軽過ぎると言って遠慮することはない。むしろ四六時中、「何かあったらマンガのネタにしよう」ということを頭の隅に置いて、ぱっとつかまえるくらいの姿勢でいよう。アイデアを出すのは、それくらい日常的にできることであって、高尚なことでも何でもない。

漫画家の寿命を一番縮めるのが、アイデアを考えようと努力すること。そうやって何も思いつかないまま3日も経つと、自分の能力を疑い始める。クリエイターにとって最もよくないのが、自分を疑うことだ。そこから自信をなくすと、ガタガタと崩れていく。

そんなふうに悩むヒマがあったら、見たこと、聞いたことをすぐにマンガにし、現金化するのだ。身近にあるものからどんどんキャッシュに変えていく。それがプロの仕事だ。

■三田流漫画論シリーズ

【vol.1 三田流マンガ論】成功するには、あえて「空席」を狙え!
【vol.2 三田流マンガ論】どうせやるならトップを目指せ!
【vol.3 三田流マンガ論】ベタな表現を恐れるな!
【vol.4 三田流マンガ論】徹夜は一切しない!
【Vol.5 三田流マンガ論】クリエイターは「凄い」人たちではない。ただ「やった」人間だ!
【vol.6 三田流マンガ論】私は、締め切りを絶対に破らない!
【vol.7 三田流マンガ論】ストーリーとは、「対立」とその「解決」である
【Vol.8 三田流マンガ論】アイデアは考え出すものじゃない
【Vol.9 三田流マンガ論】マンガを描き続けることが最優先。些末なこだわりは持たない

【Vol.10 三田流マンガ論】いい仕事したけりゃ、自己管理しろ!

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