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2017/01/16

いい仕事したけりゃ、自己管理しろ! 私の理想は「マンガ家の公務員化」だ【三田流マンガ論 Vol.10】

あなたはマンガ家という職業にどんなイメージを抱いているだろうか? 夢がある。アシスタントと一緒に朝まで徹夜する。編集者が遅れた原稿を取り立てに来る――。確かに、それがふつうのマンガ家像だ。しかし、三田紀房は正反対の持論をしばしば展開する。「徹夜はしない。でも締め切りは守る」「マンガ家になったのはお金のため」「アイデアを得る努力をしない」。びっくりするかもしれないが、理由を聞けばきっと納得し、あなたの仕事や勉強にも役立つ話だと気が付くだろう。
三田紀房のマンガ論、最終回のテーマは常識破りの「マンガ家の公務員化」。三田独自の哲学、総まとめをお送りしよう。

三田さん1

【マンガ論 Vol.10】いい仕事したけりゃ、自己管理しろ!

・「マンガ家はつらい」なんて単なる思い込み
・いい仕事をするために環境を整える
・やりたいことのためにシンプルに行動し続ける

私は常日ごろから、「マンガ家の公務員化」を目指している。
毎月安定した給料が保障され、9時から5時まで残業せずに規則正しく働いて、土日にしっかり休む。
こんなに素晴らしい生活があるだろうか?

最近は公務員を志望する大学生が増えているらしく、「夢がない」「情けない」と嘆く大人もいるというが、安定志向の何が悪いのだろう。世間一般でいうマンガ家のイメージとはほど遠いかもしれないが、私は公務員のように働くことに憧れ、そのためにさまざまな工夫をしている。
安定した労働環境で心身ともに健やかな状態を保ち、いい仕事をしたいからだ。

そもそも、マンガ家は身分が不安定な職業の最たるものだと思う。
基本的にはフリーランスで、組織の後ろ盾に守られることがない。雑誌連載を持っているときは忙しく収入も安定しているが、何年かしてその連載が終わったら、あっという間に無職になる。

連載が終わるタイミングでうまく新しい企画が始まればいいが、マンガ業界は毎月のようにどこかで新人賞の募集があり、若い才能がどんどん出てくる競争社会だ。コンスタントに雑誌連載を持つというのは、そんなに簡単なことではない。

一方で、面白いマンガをきっちり作って供給していけば、それが現金になって返ってくる率が高い商売でもある。アシスタントを抱えると人件費は出ていくが、そのほかの材料費は非常に安くて済むし、在庫を抱えこむリスクもない。
つまり、仕事さえあれば利益率は高い。

このようなハイリスク・ハイリターンの競争を生き残るべく、多くのマンガ家やアシスタントが昼夜逆転した生活で締め切りに追われて疲弊している。
「マンガ家は精神的にも体力的にもつらい職業」という世間のイメージ通り、せっかくマンガ家として新人賞を取ってデビューしても、体を壊したり不安定な生活に行き詰ったりして、長く続けられずにやめてしまう人も多い。

私はサラリーマンと自営業を経験した後にマンガ家になったので、この業界の特殊性を客観的に見ることができた。
業界の常識みたいになっているハードな働き方に対しても、「これでいいのか」と疑問を感じ、さまざまな自己管理の方法を導入してきた。

例えば、受注先と信頼関係を築きながら長く仕事を続けられるように、「徹夜をしない」(Vol.4)「締め切りを絶対破らない」(Vol.6)といった自分なりのルールを決めて実践している。

また、「アイデアは考え出すものじゃない」(Vol.8)で述べたように、つまらない自我やオリジナリティにこだわって思い悩み、作品作りが滞る事態に陥らないようにしている。
面白いマンガを描くのに必要なこと以外は、ムダを極力なくし、コンスタントに結果を出していくことを最優先するのだ。

結果を出していれば仕事は自ずと続き、金銭的にも精神的にも安定を得られる。生活が安定することでストレスが減り、マンガに集中できて作品の質が上がるという、好循環が生まれる。
これぞ、私が理想とする「マンガ家の公務員化」である。

三田さん2

「マンガ家はつらい職業」というのは、当事者や世間の思い込みでしかない。
つらい環境を耐えたからといって、面白いマンガが生まれるわけではない。
それならムダな努力や遠回りは、ないほうがいいに決まっている。

何より大事なのは、「これがやりたい」という自分の気持ちに嘘をつかないことだ。
そして、やりたいことを実現するために何をすべきかを見極め、シンプルに行動していくこと。
私であれば、心から面白いと思えるテーマで、多くの人々に強い印象に残すマンガを生涯描き続けたい。
そのための方法が、「マンガ家の公務員化」なのである。

何かをやろうとすると、たくさんの雑音が聞こえてきて邪魔をする。
業界の常識や周囲の目、プレッシャーや評判、ネット上での悪口――。
しかし、雑音を気にしたところで、あなたのやりたいことが実現するわけじゃない。

自分の中にある欲望に向き合い、余計なものをそぎ落として集中していれば、自ずと雑音は消えていく。
生涯をかけてやりたいことを貫けるかどうかは、環境や周囲の人間とは関係ない。
あなた自身の問題なのだ。

■三田流漫画論シリーズ

【vol.1 三田流マンガ論】成功するには、あえて「空席」を狙え!
【vol.2 三田流マンガ論】どうせやるならトップを目指せ!
【vol.3 三田流マンガ論】ベタな表現を恐れるな!
【vol.4 三田流マンガ論】徹夜は一切しない!
【Vol.5 三田流マンガ論】クリエイターは「凄い」人たちではない。ただ「やった」人間だ!
【vol.6 三田流マンガ論】私は、締め切りを絶対に破らない!
【vol.7 三田流マンガ論】ストーリーとは、「対立」とその「解決」である
【Vol.8 三田流マンガ論】アイデアは考え出すものじゃない
【Vol.9 三田流マンガ論】マンガを描き続けることが最優先。些末なこだわりは持たない

【Vol.10 三田流マンガ論】いい仕事したけりゃ、自己管理しろ!

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