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あなたはマンガ家という職業にどんなイメージを抱いているだろうか? 夢がある。アシスタントと一緒に朝まで徹夜する。編集者が遅れた原稿を取り立てに来る――。確かに、それがふつうのマンガ家像だ。しかし、三田紀房は正反対の持論をしばしば展開する。「徹夜はしない。でも締め切りは守る」「マンガ家になったのはお金のため」「アイデアを得る努力をしない」。びっくりするかもしれないが、理由を聞けばきっと納得し、あなたの仕事や勉強にも役立つ話だと気が付くだろう。 三田紀房のマンガ論、最終回のテーマは常識破りの「マンガ家の公務員化」。三田独自の哲学、総まとめをお送りしよう。

【マンガ論 Vol.4】徹夜は一切しない!

・夜型は業界の単なる“慣習”だ

・規則正しい働き方だとアシスタントが辞めない

・「マンガ家はきつい仕事」は思い込み

マンガ家がアシスタントと一緒に徹夜し、深夜や明け方に編集者が原稿を取りに来る――。
あなたがイメージするであろう「マンガ家」のイメージは、ほぼ当たっている。実際に多くのマンガ家、そもそも出版をはじめメディアに関わる人間には夜型が多い。

編集者、作家、デザイナー、そのほか多くの業界人は昼ごろから活動し、夜中まで働く。しかし、私はある時期から、このような慣習からすっぱり足を洗った。

私は常時5人のシスタントを雇っている。彼らは毎朝9時半に仕事場に来て1日分の仕事を済ませ、18時半には帰っていく。昼休みは特にもうけず、めいめいが自分の判断で自由に取る。金、土、日は休みで週休3日制。

木曜が週の最終出社日で、この日だけは週刊誌1本分の原稿が仕上がるまで作業をする。だから多少帰りが遅くなるが、せいぜい終電までだ。アシスタントが休む週末に、私はじっくりネームを考える。もう15年近く、このペースで制作を続けている。

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どうやら私の職場は、徹夜が前提の“ふつうの”マンガ家の職場より働きやすいらしい。アシスタントがやめないし、体調を崩す子も少ない。心身ともに余裕があるので、デジタルの新しい技術、描き方を導入しようという話をしても面倒くさがらず、積極的に挑戦してくれる。

そりゃそうだろう。マンガ家だってアシスタントだって、特別な人間じゃない。徹夜をすれば疲れるし、集中力も落ちる。誰だって規則正しくメリハリある働き方がいいに決まっている。

私だって、最初からこのことに気付いたわけではない。マンガ家になりたてのころは、先輩からアシスタントの給料やシステムなど、“業界の事情”を教えてもらって参考にしていた。そのときに「アシスタントのお菓子は切らしちゃダメだよ。ただでさえ徹夜して疲れているのに、お菓子がないと不満が出るから」と言われて、そんなものかと思って山のようにお菓子を買っておいた。机の上におせんべいやチョコレートを大量に置いて、これでアシスタントが機嫌よく働いてくれるのかと思っていたんだ。

遅い時間に仕事を始めて、お菓子をつまんだりしながらダラダラと夜中まで続ける。そうすると、アシスタントが太り出して、見るからに不健康そうになっていく。しかも徹夜するから体もきつい。あの当時はせっかく仕事を覚えても、「つらい」と言ってやめていくアシスタントが多くて、本当にもったいないことをしていた。

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“業界の慣習通り”の働き方を続けて7~8年間経ったあるとき、ふと思い立って「来週、実験的に1週間徹夜しないルールを作ろう。朝早く来て、集中して作業しよう」と言ってやってみたら案外うまくいった。アシスタントのみんなも「このほうがいい」と賛成してくれたので、それ以来、規則正しい働き方に変えたんだ。

今ではみんな効率的に仕事をして手が早くなったし、作業の質も格段に上がった。何よりアシスタントが辞めなくなったのが嬉しいね。お菓子はもう置いてなくて、食べたい人は自分で買って来る(笑)。

結局、「マンガ家は精神的にも体力的にもきつい仕事」という先入観があって、だからお菓子を与えてケアするとか、耐え抜いた人間しか成功しないとか、妙な方向に考えがいってしまう。そうではなく、一般的な仕事と同じように、健康的な生活環境を整えてあげれば、自然と集中して仕事するようになる。

そもそもマンガ家というのは、毎日徹夜しないと終わらないほどの作業量があるわけではない。ほとんどの人が惰性でもって、だらだらと仕事をしているだけなんだ。仕組みさえ整えれば公務員のように9時~17時で働くスタイルが確立できると、実際にやってみてわかった。

徹夜しないマンガ家は珍しいと言われるけど、当たり前のことをしているだけだと私は思うね。

■三田流漫画論シリーズ

【vol.1 三田流マンガ論】成功するには、あえて「空席」を狙え!
【vol.2 三田流マンガ論】どうせやるならトップを目指せ!
【vol.3 三田流マンガ論】ベタな表現を恐れるな!
【vol.4 三田流マンガ論】徹夜は一切しない!
【Vol.5 三田流マンガ論】クリエイターは「凄い」人たちではない。ただ「やった」人間だ!
【vol.6 三田流マンガ論】私は、締め切りを絶対に破らない!
【vol.7 三田流マンガ論】ストーリーとは、「対立」とその「解決」である
【Vol.8 三田流マンガ論】アイデアは考え出すものじゃない
【Vol.9 三田流マンガ論】マンガを描き続けることが最優先。些末なこだわりは持たない

【Vol.10 三田流マンガ論】いい仕事したけりゃ、自己管理しろ!

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