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あなたはマンガ家という職業にどんなイメージを抱いているだろうか? 夢がある。アシスタントと一緒に朝まで徹夜する。編集者が遅れた原稿を取り立てに来る――。確かに、それがふつうのマンガ家像だ。しかし、三田紀房は正反対の持論をしばしば展開する。「徹夜はしない。でも締め切りは守る」「マンガ家になったのはお金のため」「アイデアを得る努力をしない」。びっくりするかもしれないが、理由を聞けばきっと納得し、あなたの仕事や勉強にも役立つ話だと気が付くだろう。さっそく、三田流マンガ論をお聞かせしよう。

【マンガ論 Vol.3】ベタな表現を恐れるな!

・中途半端にやるからダサくなる

・マンガは「強さ」を意識しろ

・個性など追求するだけムダ

マンガをヒットさせる手法を金融マンガ『ミナミの帝王』から学んだことは、前回話した通りだ。キーワードは「デカイ顔」「決めセリフ」「比喩表現」。いずれも、とても“ベタ”な表現だ。

ベタな表現というのは、思い切って使うと大きな効果をもたらしてくれる。しかし、実際に作品に取り入れるマンガ家は意外と少ない。なぜなら、ベタな表現はダサく見えるからだ。多くのマンガ家が言われて落ち込む言葉は、おそらく「面白くない」「絵が下手」よりも「ダサい」だろう。そのプライドが邪魔して、ベタな表現を避ける人は多い。取り入れたとしても、躊躇しながら中途半端に使って余計にダサくなってしまう。

マンガの価値を図る基準の一つに「強いか、弱いか」というものがある。映画や小説といったあらゆる媒体で「面白い」という要素は必要だが、マンガはそれに加えて「強さ」が求められる。きれいな絵でスタイリッシュであっても、弱いマンガは読者の目に留まらず、すぐに忘れられてしまう。読者に強烈な印象を与えられるかどうかがマンガの勝負どころであって、そのためにベタな表現は大いに有効だ。

例えばお笑い芸人で、裸でパンツ一丁になるという芸は二流、三流に見えるし、バカにされるかもしれない。しかしダチョウ倶楽部のように恐れずにそれをやり続け、視聴者から長く愛される芸人がいる。逆に多くの芸人が、王道から外れて奇をてらった芸でぱっと目立ち、やがてブームが去って消えていく。もちろん北野武やタモリのような天才はいるが、あれほどの才能がある人間はどの業界でもほんの一握りである。

マンガ家も同じだ。自分の実力を冷静に判断し、まずは生き残るために、二流と言われてもベタな表現で強い印象を残す。それを続けていると次第に読者に覚えられ、マンガ家としての知名度が上がっていく。読まれるマンガを描きたいなら、変わった個性など打ち出そうとせず、ベタな表現を使うのがいちばんいい。

そもそも私は、「個性」などというものを信じていない。よく自分の個性、オリジナリティーを見つけたり表現したりすることを人生の課題としている人がいるが、そんなものはそうそうあるもんじゃない。天才と言われたベートーヴェンですら、出発点ではモーツァルトやハイドンから徹底的に学び、そのうえで後世に残る名作『交響曲第九番』を生み出した。

スポーツや芸術、どんな分野でも、最初は先人が培ってきた技術や知恵を真似することから始まる。自分一人で独自の方法を追求するより、そのほうが早いからだ。「個性を見つけて伸ばせ」と言っても、一人の人間がもつ能力なんてたかが知れている。まずは型通りにやってみる。それも、とことんやる。そうすれば個性は後からついてくる。

要するに、早く結果を出すことが大事なんだ。あなたが個性を探しているプロセスには、誰も一円もお金を払わない。完成原稿にしか価値はないのだ。それなのに、マンガ家をはじめ多くの表現者が自分の個性を見つけることにばかり力を注ぎ、作品を作ることを忘れている気がしてならない。

個性なんて気にするな! そんなものはなくていい。先人から大いに学び、多少表現をパクってもどんどん原稿を作っていこう。それが、マンガ家として生きていくということだ。

★今回の「三田流マンガ論」の内容をもっと詳しく知りたい方はこちら!

個性ってそんなに大事なものだろうか? 「成功したければ『型』にはまれ!」「先駆者になるな、2番手3番手をめざせ!」など、三田紀房が人生の必勝法を教える。

『個性を捨てろ! 型にはまれ!』(だいわ文庫)

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■三田流漫画論シリーズ

【vol.1 三田流マンガ論】成功するには、あえて「空席」を狙え!
【vol.2 三田流マンガ論】どうせやるならトップを目指せ!
【vol.3 三田流マンガ論】ベタな表現を恐れるな!
【vol.4 三田流マンガ論】徹夜は一切しない!
【Vol.5 三田流マンガ論】クリエイターは「凄い」人たちではない。ただ「やった」人間だ!
【vol.6 三田流マンガ論】私は、締め切りを絶対に破らない!
【vol.7 三田流マンガ論】ストーリーとは、「対立」とその「解決」である
【Vol.8 三田流マンガ論】アイデアは考え出すものじゃない
【Vol.9 三田流マンガ論】マンガを描き続けることが最優先。些末なこだわりは持たない

【Vol.10 三田流マンガ論】いい仕事したけりゃ、自己管理しろ!

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