道塾に1人の男がやってきた。
TBSテレビで数々の人気バラエティ番組を手がけてきたプロデューサー・角田陽一郎さんがお贈りする道塾学園「最強の授業」。
5回目のテーマは、投資部も必聴!「お金の話」である。
『インベスターZ』にも出てきた、貨幣が生まれて流通するまでの話から、お金によって人間が時間を手に入れたという話まで、知っていそうで知らない「お金」の歴史について、今回も楽しく学ぼう!
プロデューサー・角田陽一郎の「世界史の特別授業」
1時間目・・・「商人の話」 実はイスラム教は、合理的で寛容的な宗教である。
2時間目・・・「民族の話」 民族や文化はしょせん 「ミックス」されたもの
3時間目・・・「産業の話」 技術革新や発明が 生活時間、行動範囲、芸術までも変化させた
4時間目・・・「情報の話」 現在は、農業革命、産業革命に続く 「情報革命」が進行中である
モノの価値を決める物差しとして
お金は誕生した
ここまであまり触れてこなかったのがお金、すなわち富の話です。世界史のほとんどは戦争であり、その戦争のほとんどは富の奪い合いから始まっています。そもそも富とは何なのでしょうか?
その昔、話はシンプルでした。今から約1万年前に農耕が始まった頃、ある人が自分が作った食物(例えばムギ)を自分の集落の人々に配ったとします。でも毎回ムギだけだと飽きちゃいますよね。一方隣の集落には違う食物(例えばリンゴ)がある。
「ならば交換するのはどうですか?」
こうして交易が始まったのです。すると交換する時に「このムギどれくらいで、リンゴ何個分になりますか?」という話になる。その集落はさらに別の集落とまた違う獲物(例えばシャケ)を交換するかもしれません。ならばいっそのことモノの価値を決めちゃう基準=単位を作っちゃった方が早いですよね? ということを、きっと誰かが思いついたのです。それがお金の始まりです。
余談ですが、アメリカのドル(dollar)という単位の由来は、16世紀の神聖ローマ帝国のボヘミアで発行されたターラー(Thaler)銀貨という言葉が使われたからだそうです。日本の円も、18世紀に中国に新大陸から渡った銀で作られた銀円という言葉が使われるようになって明治政府が決めた名称だそうで、どちらも外国発祥なのが面白いですね。
お金は、だいたい4500年前に始まったと言われています。人類の歴史を1万年と仮定すると、むしろお金がなかった時代の方が5500年と長かったことになります。
その当時お金になったのは、誰もが貴重と認めるモノでした。ムギ、コメ、トウモロコシなどの穀物だったり、ウシ、ブタ、トナカイなどの動物だったり、毛皮だったり、貝殻だったり、珍しい石だったり……それがやがて貴金属を使うようになりました。
でも貴重すぎると誰にも手の届かないものになり、流通しません。こうしてお金は、銅・銀・金に集約されていったのです。こうして19世紀末には、世界は金が価値の基準単位になる金本位制に統一されます。
日本の江戸時代は、基本的に金銀銅の三貨制でした。江戸を中心とする東日本では金が流通し、大坂中心の西日本では銀が主に流通していました。でもその金と銀の交換レートが世界の基準レートとは異なっていたため、幕末に黒船がやってきて通商が始まると、その価値の違いから日本の富の流出と混乱が起こり、明治維新の要因になるのです。
絵画という形にすれば
大金が手軽に運べる
お金が流通したことで人類は何を手に入れたのでしょうか? それは時間です。それまで自分が食べるものは、自分たちで獲得しなければなりませんでした。自分たちだけの力で獲得できるものは限られます。
しかし貨幣経済が誕生すれば、他者から欲しいもの、必要なものをなんでも買ってくればいいのです。その分、自分の時間を有効に使えます。つまり富とは、お金をたくさん持っていることであり、お金をたくさん持っていることは、時間をたくさん所有できることを意味するのです。
人は必ず死にます。つまり、使える時間は限られています。その限られた人生で、自分の時間を増やしたいという要求が起こるのは当然です。その根源的な要求が富への要求、すなわちお金への要求なのです。
そう考えると、お金のために死ぬというのが、なんと矛盾した行動なのか、わかると思います。そして、このお金の価値は作ることができるのです。例えば画家が絵を描いてもその材料費はたかがしれています。しかしその絵に価値が加わると、元の何百倍、何千倍、何万倍の値がつくことがあります。
これは有名な画廊のオーナーに聞いた話ですが、例えば皆さんが10億円持って移動することを想像してください。10億円分の紙幣を一人で運ぶのは困難です。しかし絵画なら、木枠から外してクルクル巻き、カバンに入れれば飛行機の手荷物で運ぶことだって可能なわけです。
ルネサンス期イタリアのレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『モナ=リザ』は今、パリのルーヴル美術館にあります。なぜなのか? それは作者のダ・ヴィンチが絵をフランス王フランソワ1世のもとに運んだからです。つまり絵画は移動可能な価値なのです。「絵はモバイルである」とその画廊のオーナーはおっしゃっていました。
価値の算定は
アイドルの人気投票と同じ
価値を決める方法は二つあります。
・みんなが欲しいと思うか?
・これはみんなが欲しいものだと、誰かが決めるか?
この二つ。前者はAKBの総選挙と同じですね。一番人気の人がセンターに立ちます。これは、多くの人が『モナ=リザ』を見にパリを訪れることと基本的には同じ意味です。ちなみに世界で一番高値とされる絵画は先に例に挙げた『モナ=リザ』だと言われています。
『モナ=リザ』の場合は、誰か権威者が一番高いと決めたからではなく、『モナ=リザ』がルーヴルにあるだけで、パリへフランスへどれだけの経済効果を発生させているかという経済規模で算定されるからです。集客や集金という価値を生むものが、それだけの金銭的価値を生むのです。
そしてもう一つの方法は「誰かが決める」。ある権威者が「これは価値がある!」と言ってのけることです。すると、そこに価値が生まれます。そしてその一番の代表が貨幣なのです。この紙切れは、「原材料的にはただの紙切れだけども、これから1万円分の価値がある」と決めよう!と権威者が決めるのです。
……しかし、これには盲点があります。この権威者が決めたことを、誰かが疑いだしたら? 人気投票で、権威者自身の人気がなくなったら?
そうです、その瞬間に価値は一気になくなるのです。
リンゴを買う時に「そのお金にそれだけの価値があるとは思えないから、2倍くれ」と売主に言われて、いや、それは高すぎるからヤメるって場合もあるでしょうし、それでも欲しかったら買い手は2倍払うでしょう、その2倍払うことが物価のインフレなのです。ある権威者が決めても、結局はみんなが欲しいと思うかどうかにかかっているのです。
アートも経済も、結局全てがアイドルの人気投票と仕組みは同じ。その商品がイケてるか? イケてないか? 景気とはよく言ったもので、まさに人々の期待感=気分の問題なのです。
就職活動とは
自分の投資先を決める行動である
ある権威者がある価値を作り、その権威があるきっかけで失墜すると、人気がなくなり、価値までも無くなり、その混乱で戦争、恐慌、革命が行われる。そしてまた新しい価値が作られ、以下同じような運命をたどっていく……。歴史とは、こんな流れの繰り返しなのです。そして、新たなものに新しい価値が生まれると信じて、価値を見出すために行われるのが投資です。15世紀のコロンブスの大航海は投資であり、19世紀の植民地開拓も発明品も投資であり、現代の宇宙開発だって投資なのです。新たな価値を生み出すために、未来に向けて自分たちの価値を投資するのが、人生です。
価値があるものというのは、お金だったり、アートだったり、発明だったり、人間の権利だったりします。18世紀の奴隷制度が存在していた時代、奴隷になった人間は、人間ではなくて商品でした。奴隷の労働力が富として計算され、売買されたからなのです。
19世紀のマルクスが唱えた階級闘争も、「労働者の労働の価値を、価値のある分だけ認めろ!」という闘争でした。
そう考えると、今現在の僕たちの労働だって、奴隷制度やマルクスの頃の労働者と本質的にはなんら変わっていないことに気付きませんか? 自分が働いた対価にお金を貰う、自分の労働力が価値なのです。
就職活動とはつまり、自分の人生の時間をこれからどの業種に投資するか?という投資活動。生涯賃金が約2億円だとすれば、未来の2億円の投資先を決めるのが就職活動なのです。
お金の価値も
人気投票で決まる
様々なモノの価値は、お金が発明されてから、ほぼお金で算定されてきました。なので、お金の奪い合いが、戦争を生むのです。
第一次世界大戦の直接の原因は、19世紀末から続く好景気が原因でした。好景気で伸びたドイツの国力が、さらなる投資先を望み、それはイギリスやフランスなど既得権益連合から奪うしかなかったからなのです。
第二次世界大戦の直接の原因はこれと逆で、1929年に始まる世界恐慌が原因でした。アメリカから始まった世界恐慌は、言うなれば、調子よくじゃんじゃん上り詰めたら、なんか怖くなっちゃって、誰かが引き返したら、急にみんなが一斉に引き返したことで始まりました。そして、各国は自分たちの既得権益(植民地、市場、資源)だけを信じるようになり、その経済圏の中に閉じこもろうとし(ブロック経済)、その既得権益が少ないドイツと日本が暴れたものでした。
戦後、二つの世界大戦で世界の富が集まり、資本主義諸国のリーダーになったアメリカは、自分たちのお金をさらに権威付けます。金本位制からドルが金と唯一交換できる通貨になるという、金・ドル体制(ブレトン=ウッズ体制)です。
敗戦国日本は1ドル=360円と決められました。円は丸だから360度ということで、360でいいだろうと安易に決められたらしいです……。それくらい円の価値はなくなっていた、つまり日本のお金の信用はなかったのです。
ただ、アメリカも同じ運命をたどりました。アメリカの信用が続く限りは大丈夫ですが、一度信用が失墜するとみんながドルを金に交換しようとします。
朝鮮戦争による特需景気を契機として日本の産業が復活すると、日本の信用が上がり、1ドル=360円というレートはアメリカにとって不利に働く局面も出てきました。また、社会主義諸国との東西冷戦で、軍事費がかさみ、ベトナム戦争(1965~1975年)の泥沼化で、アメリカ経済の収支が悪化し信用が失墜しました。
そして1971年、ニクソン大統領は金とドルの交換を停止しました。こうして世界は変動相場制になったのです。
どうせ信用が伸張したり失墜するならば、みんなの人気投票に応じて、為替レートも決めちゃおう!という話です。富の価値の基準であるお金の価値そのものも、人気で決めちゃおうというのが今の経済なのです。
■終わりに
人類が食料を自ら手に入れる時間をお金で買っているという話から「タイムイズマネー」の根本的な意味がわかったのではないだろうか。そう、わたしたちは、無意識の内に時間を手に入れるために、あるいは自分の時間を確保するためにお金を使っているのだ。あなたが普段から「お金が欲しい」と考えている人であれば、本記事でお金との向き合い方を見直す機会となったはずだ。次回の授業もお楽しみに!
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角田 陽一郎 (かくた よういちろう)
1970年生まれ
TBSテレビメディアビジネス局所属。東京大学卒業後、TBSに入社。
プロデューサーとして「さんまのスーパーからくりTV」「中居正広の金曜日のスマたちへ」「EXILE魂」など、主にバラエティ番組の企画制作をしながら、映画『げんげ』監督などを務める。主な著書に『成功の神はネガティブな狩人に降臨する』など
■この授業は、角田さんの新著『「24のキーワード」でまるわかり!最速で身につく世界史』で全文が読めます!
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