プロデューサー・角田陽一郎の「世界史の特別授業」 3時間目「産業の話」 技術革新や発明が 生活時間、行動範囲、芸術までも変化させた

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道塾に1人の男がやってきた。
TBSテレビで『さんまのスーパーからくりTV』『EXILE魂』など数々の人気バラエティ番組を手がけてきたプロデューサー・角田陽一郎さんだ。
角田さんは道塾に着くなり、「歴史を学ぶことには、事実を次々に“発見”していく面白さがあります。その時代の人々がどう動くかというストーリー展開を知るのも楽しい。世界史は、最高のバラエティなんです」と語り出した。
「ぜひ、道塾の優秀な生徒たちに、面白い世界史の見方を教えてあげたい!」
角田さんによる特別授業の3時間目は、「産業の話」だ。「産業革命」については学校の授業で習っただろうが、その影響力がいかに現在につながっているかまで考えたことはあるだろうか?今回も、目からウロコの授業をお届けする。


プロデューサー・角田陽一郎の「世界史の特別授業」

1時間目・・・「商人の話」 実はイスラム教は、合理的で寛容的な宗教である。
2時間目・・・「民族の話」 民族や文化はしょせん 「ミックス」されたもの

☆角田さんプロフィール(バージョン2)

特別授業の講師・角田陽一郎さん

人はお腹が空くと
革命を起こす



市民革命が起こった18世紀には、もう一つの革命が進行していました。
産業革命(Industrial Revolution)です。様々な技術革新が起こり、発明された機械が人力に変わって生産を行う「機械制工業生産」のことです。 ところで、この本では今まで、施政者が民衆を苦しめた状況を「圧政に苦しみ、反乱が起こった」というように、曖昧な記述の仕方をしてきました。ではその「圧政」とは具体的には何なのでしょうか? よく考えてみてください。近代の革命前の時代は、人権の概念が希薄でした。現在の我々が普通に持っている言論の自由、移動の自由、信仰の自由、労働の自由、これらはみな市民革命を経る中で先人が闘って獲得した権利です。逆に言えば、革命前の状態では、言論の不自由、移動の不自由、信仰の不自由、労働の不自由が普通だったということですね。 そんな不自由が多い社会で、民衆にとっての一番の圧政は重税です。税として徴収されるものには、お金や食料があります。税を過剰に搾取されるということは、「食べる物が足りなくなる」ということ。人は何にも増して食べる物が不足した時、不満が爆発するのです。 農民は自分が作った農作物から何割かを取られる、商人も何割か取られる。一方で国王や貴族や聖職者は税を免れ、裕福な暮らしをしている。日々の生活に窮するほどの税を課せられ、特権階級との差を感じた時に人々は圧政を実感し、反乱や革命につながるのです。

産業革命が
市民革命までも後押しした



アメリカ独立戦争の発端は、イギリス本国のアメリカ植民地への課税でした。当時、イギリス議会に代表を送っていなかったアメリカの植民地は「代表なくして課税なし」をスローガンにしてイギリスとの独立戦争を始めました。

フランス革命の場合は、免税特権のある貴族への課税を行うため、三部会を開催したことが発端でした。やがてフランス各都市の民衆は、パンを求めて反乱を起こしていきます。

逆に言えば、18世紀に市民革命が起こり、民衆が様々な権利を主張するように(できるように)なったのは、その生きるための最低限の飢えからの解放を得た上で、理想の実現に向かったとも言えます。そしてこの飢えからの解放は、ほぼ同時期に起こった産業革命によって加速します。そういう意味でも産業革命は、技術的な意味だけでなく、人類における歴史の転換点=革命と言えるのです。

産業革命はイギリスで起こり、瞬く間に他の欧米諸国、やがては世界中に広まりました。なぜイギリスが発端だったのでしょうか? 天才的な発明家がたまたまイギリスに現れたから……かもしれません。

しかし17世紀のイギリスには、産業革命発生の要因が整っていたことも事実です。その要因とは、大西洋と資本主義と労働力です。



大規模農園を経営したくて
株式会社が発明された



16世紀、新大陸アメリカで銀山が次々と発見され、大量の銀が産出されます。ヨーロッパに、それまで流通していた6倍以上の銀が持ち込まれたのです。

すると各国の商業圏が結びつき、流通が増大して商業が活発化しました。これが商業革命です。一方で銀の価値が暴落し、物価が何倍にも跳ね上がるインフレーション、すなわち価格革命が起こります。

ヨーロッパで最初に商業で繁栄した海運国家は、1648年にスペインから独立する以前のオランダでした。農地に恵まれなかったオランダではもともと、漁業や毛織物業が盛んでした。

オランダは自国で生産した産物を輸出することで、大西洋とインド洋とを海運で結びつけます。そして植民地に資本を投資し、大規模農園の経営を始めます。先住民や黒人奴隷の労働力を有効活用して、単一作物を大量に栽培するプランテーションを開始したのです。

プランテーションは、より規模を拡大していきました。そのためには資本が要ります。こういった事情から、資本を集めるために株券が発行され、株主に購入してもらうことによって資本を集める、現在の株式会社の原型ができあがるのです。

1602年に作られたオランダ東インド会社は、世界初の株式会社と言われています。株式会社は大成功し、次々と各国で作られ、資本家を生み出します。こうして資本主義経済が誕生しました。



イギリスの強みは
島国だったこと!



やがて海洋路や植民地の勢力争いから、イギリスと3次にわたる英蘭戦争が起こり、オランダは敗れ衰退していきます。オランダに代わって台頭したイギリスでは、ランカシャー地方で毛織物業が発達します。

さらにイギリスは、アメリカ、東南アジアを植民地化し、やがて18世紀半ばにはインドとの貿易をし、植民地化を本格化させるのです。

イギリスは、オランダが生み出したシステムをそっくり模倣することで、成長しました。イギリスは、オランダにはないアドバンテージを持っていました。それは島国だったこと。大陸の国々のように近隣国から直接侵略される恐れが少なく、富の全てを海軍につぎ込むことができたのです。

逆に言えば、常に陸地を接した大国からの侵略に怯えなければならなかった内陸国家の発展が遅れたのは、陸上からの侵略に備える必要があったからとも言えます。この島国であるがゆえの優位性は、日本についても同様のことが言えます。なにせ日本の本土を侵略できたのは、鎌倉時代の元寇と太平洋戦争時のアメリカ軍など、非常に限られますから。



資本主義経済により
自給自足だけで満足できなくなった



ヨーロッパ諸国にとって、大西洋を挟んだ新大陸との資本主義経済は、それまでの地域内の自給自足経済と異なっていました。利潤を追い求め続ける膨張経済が始まったのです。それまでは自分たちが食べるためにだけ行っていた自給行動が、拡大すればするほど富が獲得できる欲望行動へと変化したのです。

富を持った裕福な市民=ブルジョワジーが新大陸に求めたものはサトウ、タバコ、コーヒー、カカオなどでした。また、アジアに求めたものは、中国産の紅茶とインドの綿布などの嗜好品でした。こうして、新しい生活スタイルを求める生活革命が起こったのです。

さらにカリブ海のサトウを輸入するため、サトウキビのプランテーションで労働する黒人奴隷をアフリカから輸入し、そのアフリカにはヨーロッパから銃や酒、日用品を輸出するという三角貿易が誕生します。黒人奴隷はヒトではなく商品だったのです。

こうして商業は発達し、この頃に市場経済や保険など、現在に続く経済の仕組みが誕生しました。やがて原産地だけで生産されていた農産物は、植民地で栽培されるようになりました。エチオピア原産のコーヒーはブラジルやジャワ島で栽培されるようになり、中国のお茶はインドで作られるようになります。

また、インドからの綿布の輸入を減らし、カリブ海の周辺地域で綿花を栽培します。こうしてイギリスでは、衰退した毛織物生産に代わって、綿織物生産が台頭するのです。



産業革命により人は
働くために生きることになってしまった



イギリスでは綿織物の大量生産を試行錯誤する過程で、数々の技術革新がありました。ジョン・ケイの飛杼、ハーグリーヴズのジェニー紡績機、アークライトの水力紡績機、クロンプトンのミュール紡績機、カートライトの力織機などです。

ちなみに飛杼とは、経糸の間を緯糸が行ったり来たりする動きをさせるもの。杼は形状が先がとんがった細長で、英語で「シャトル(shuttle)」と呼ばれます。シャトルってどこかで聞いたことがありませんか? そうです、スペースシャトルです! 宇宙空間(スペース)を行ったり来たりし、先がとんがった細長の形状を持つのが、スペースシャトルですよね。

シャトルという些細な発明が、産業革命の端緒になって、やがて宇宙空間まで人類を飛び立たせるシャトルに発展するわけですから、技術の進化は驚くばかりです。

そして動力源として場所が固定される水力に変わって、石炭を燃料にした蒸気の作用で動くピストン運動を円運動に変換する蒸気機関が、1781年にワットにより発明されます。織物機はもとより、やがて製鉄業、機械工業、炭鉱業など、様々な産業に使用されるようになります。

当時のイギリス国内では、農業革命が起こって農業の生産力が高まっており、人口が増加していました。さらに、資本家による農地の囲い込みで、農民は土地を失います。こうして農民は農地を離れ、労働者として都市に流入します。彼らは発明されたばかりの機械を使った工場で働くようになり、機械制工業生産が行われるようになるのです。

それまで、富を生んでいたのは農地でした。しかし、機械制工業生産の拡大により、都市が富を生むようになります。都市の工場労働者という、現代に続く新たな階層の出現です。

そして、この工場労働者の出現は新たな社会現象を生みました。それは「子どもの誕生」です。意味がよくわからないかもしれませんね……。それまでは〝子ども〟は存在していなかったのです。〝小さい大人〟がいるだけでした。

しかし、工場で労働するために、知識と技術と経験を学ぶ必要性が生じます。大人になるための年少期に教育をする期間=すなわち、子どもが誕生したのです。こうして学校制度が発展していきます。

しかし同時に、公害や労働条件の悪化など様々な社会問題を生み出しました。人の生活が「食べるために働く」から「働くために食べる」へ変化したのです。この劇的な変化の中で、人類は人権を意識するようになりました。後述するように、やがてそこから共産主義の考え方が生まれます。



距離と時間の制限
からも解放された



産業革命は、動力革命でした。蒸気機関が移動手段に応用されたのです。1807年にフルトンによって蒸気船が実用化され、1814年にはスティーヴンソンによって蒸気機関車が製作され、1825年に実用化されました。

今まで風力か人力かウマを使うしかなかった移動手段が、動力機関を使うことで速度、一度に運搬できる物量、ともに圧倒的なパワーを獲得したのです。遠隔地との時間的距離が大幅に短縮され、「鉄道狂時代」と呼ばれる鉄道建設ラッシュが起こりました。

また18世紀末には電気を使う発明が起こり、1830年代に入ると電信として実用化されます。電信が発明される以前、人類は直接会えない遠隔地との交信には狼煙を使うなどしかありませんでした。それがほぼ時間差なく、情報の受け渡しをできるようになったのです。そして1870年代には電話が発明されます。

動力機関は石炭を使う蒸気機関から、やがて燃料効率のすぐれたガス、石油が主燃料になり、やがて電気が動力に使われるようになります。また、ガス灯とそれに続く電灯の発明によって、人類は夜も活動できるようになり、生活時間が伸長しました。

蒸気機関によって「世界は縮小に向かい」、照明器具の革新によって「世界は拡大に向かった」とも言えるかもしれません。「動力革命」とはいわば「無限革命」であり、人類は理念として”無限”を手に入れたのです。

カメラの発明も忘れてはなりません。19世紀中頃には実用化されます。これまでは物事の造形を記録する方法は絵画しかありませんでした。なので絵画には、どれだけ正確に再現描写できるかという技術が一番問われていましたが、写真の発明で絵画に正確さを求める必要性が薄れました。それが19世紀後半の印象派などの芸術の多様化に結びついていきます。記録といえば、蓄音機の発明も大きいですね。

……と、発明された数々の技術を挙げ続けたら、きりがありません。そもそも技術革新というものは、現代でも、日々起きています。産業革命の時期だけの話ではないのです。

とはいえ、この18世紀半ばから19世紀にかけての技術革新ほど、インパクトのある技術が次々と発明された時代はなかったでしょう。技術革新のたびに人々の歴史は影響を受けてきました。「産業革命」という言葉は、その衝撃から名付けられたと言っていいかもしれません。

逆に言えば、産業革命とは、この時代に始まり、これからも未来に向けてずっと続く歴史の転換点の連続なんだと考えた方が、これから迎える現代史を把握しやすくなるかもしれません。

■終わりに
今回の主題は「産業革命が生活時間、行動範囲、芸術までも変化させた」ですが、これは現代のIT革命時代にも起きています。
例えば、LINEやTwitter、FacebookなどのSNSが好例です。実際には会えなくても、または面識のない人でもネットに接続できれば、いつでもどこでも他者とコミュニケーションが取れます。これはひと昔前であれば全く想像もできない世界でした。これはほんの一例ですが、技術革新による革命が起こるたびに、人の生活様式は変わり、働き方も変わっていきます。現代のIT革命は、まさに今回の講義に出てきた産業革命の話と同じ状況なのかもしれません。このように歴史を知ることは、未来を予見する力をつけるということでもあるのです。

☆次回の授業も角田さんが先生となり、お話します!4時間目は3月下旬掲載予定です。

  • ☆角田さんプロフィール写真
    角田 陽一郎 (かくた よういちろう)

    1970年生まれ
    TBSテレビメディアビジネス局所属。東京大学卒業後、TBSに入社。
    プロデューサーとして「さんまのスーパーからくりTV」「中居正広の金曜日のスマたちへ」「EXILE魂」など、主にバラエティ番組の企画制作をしながら、映画『げんげ』監督などを務める。主な著書に『成功の神はネガティブな狩人に降臨する』など

■この授業は、角田さんの新著『「24のキーワード」でまるわかり!最速で身につく世界史』で全文が読めます!

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