日本の「ロバスト」に可能性がある
インターネットの「第1の波」が到来したかつての25年、日本は完敗した。
そしてさらに次の12年、過去に類を見ないダイナミックな変化が訪れる。
だが、恐れることはない。
私は、日本というのは「ロバスト(robust=強靭でたくましい)」な国だと思っている。何せ、日本は世界でも有数の自然災害の多い国だ。海外からは、四季に恵まれた自然の美しい国と思われているかもしれないが、江戸時代以降だけを見てもマグニチュード7以上の地震が100回以上起きている。台風の進路にもあたり、毎年のように被害が出る。こういう自然の驚異にさらされ、生き残るために対応しながら、人々がロバストな特性を身に付けていったのだと思う。
例えば、日本は第二次世界大戦後に戦死者約200万人、国富の4分の1を消失するという状態から、一時期はアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国にまで上り詰めた。その間、急成長のひずみによって世界で初めて経験した公害問題を乗り越え、いまでは中国をはじめとするアジアの国々に環境技術を輸出している。第一次石油危機ではいち早く省エネ技術を確立させ、その後さらに第二次石油危機が起きて他国が不況に陥ったとき、日本だけは順調に経済成長を続けることができた。
こういうロバストな日本で育ったあなたたちは、変化に対応し、生き残る強靭な力を内に秘めているはずだ。日本人にとって急激な変化は不利だという人がいるかもしれないが、そうではない。
逆境に追い込まれたときこそ、日本人は力を出す。
25年の低迷期を経て、いまこそロバストな国の底力を発揮するときだ。
変化の時代に必要とされる発想って、いくら勉強して知識を蓄積しても湧いてこない。だから私は、ハーバードだとか、ロンドン・スクール・オブ・ビジネスでスピーチする機会があると、「Good Bye, Case Sturdies!!(ケーススタディよ、さようなら)」と言っている。先生たちからは渋い顔をされるけど、生徒からは拍手喝采。若い人たちのほうが、時代の変化を肌で感じて理解しているからね。
MBA※の授業ってケーススタディばかりだけど、数年前の企業の成功や失敗をいくら勉強しても、これから起きる変化には対応できない。事実、インターネット通販で大成功したガリバー企業のアマゾンですら、近年は中国の電子商取引最大手・アリババに牙城を揺るがされている。一方で、そのアマゾンとグーグルはDNA解析ビジネス、またアップルとグーグルは次世代自動車の開発に参入するなど、IT業界の雄たちは既に未来に向けて手を打ち始めている。
もちろん歴史を知り、大局を見る眼を養うのは大事だけれど、たった数年の過去を振り返ったり、成功例を分析したりしても、的外れな結果に終わるだけだろう。
過去の踏襲に意味はない。
あなたたちの前に広がる「未来」を見よ。
そこにある変化の予兆は、ここまでに述べた。
あとは、勇気を出して踏み出すだけだ。
※経営学修士。グローバルなビジネスの世界で最も権威があるとされる資格
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いでい・のぶゆき
1937年生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、1960年ソニー入社。オーディオ、コンピューター、ホームビデオ事業の責任者を経て、1989年取締役、1994年常務。
1995年社長兼COOに就任後、会長兼グループCEOなどを歴任。ソニー会長兼グループCEOを退任後、クオンタムリープ株式会社を設立。産業の活性化や新産業・新ビジネス創出を実現するための活動をグローバルに展開している。他にレノボグループ、百度 (Baidu) 、マネックス、フリービットで社外取締役などを務める