エントリーシートの多くはほとんど読まれずに捨てられる!?就活生からすれば耳を疑いたくなるような話を、『エンゼルバンク』モデルであり、雇用のカリスマと呼ばれる海老原嗣生氏は前回語った。(前編はコチラから読めます)
今回は前回に引き続き、就活で他の学生に差をつけられないための、「選ばれる自己PRの作り方」を、学生からのQ&A形式で掲載する。
Q.自分らしさが出ていれば、どんな話をしてもいいんですか?
いいえ、それだけではだめです。話す内容に奇抜さはいりませんが、「あなたらしさ」がでないとだめなんです。
さっき言った盆栽の話のように、面接で話すエピソードはたいしものじゃなくていいんです。ふつうの日常話で問題ありません。
でも、いくら「あなたらしさ」が見える話でも、みんなと同じような話をされたら、企業は採れないんです。ここもよく考えて欲しいです。
例えば、僕は帝塚山大学って所で講師をしています。帝塚山大学って、奈良大阪では有名なお嬢さん大学でした。だから、共学になった今でもかつてのブランドを引く、栄養学科が人気なんですね。そこの生徒は就活をどうするかというと、在学中に栄養士の免許取って、地元の給食センターを受けるという人が非常に多いんです。給食センターならば潰れにくいし、地元から離れなくて済む。でも、栄養士の免許って取るのが難しいから、みんな必死に勉強して、そして毎年30人、40人が栄養士の資格を取っていくんです。
ここで考えてみてください。みんな地元の給食センターを受けるっていうことはどういうことでしょうか。みんな一生懸命勉強しているから、サークル活動なんかはあまりしていないことが多い。一応、バイトはしている。だけどバイトはみんな、食に興味を持っているから、たいていが飲食業で働いている。それをアピールするとどうなるか。みんな同じ話になるんです。
つまり、私は食に興味を持っていて、だから栄養士の免許を取りたくて、地元の有名な帝塚山に行きました。そして頑張った結果、栄養士の免許が取れました。だけど勉強ばっかりしていたので、サークルに入っていません。その代わり、私は自分の腕を磨きたいので、飲食業でアルバイトしました。お客さんと接して、そして私の作る料理や仕事に対して、ありがとうと言って、笑顔になってもらえることが好きでした、なんてて言うんです。
エピソード自体は確かに良いかも知れないけど、それ、他のみんなも同じようなことを言うんです。だから差別化ができないんですよね。たとえば30人が、みんな同じ給食センター受けてそのエピソードを言ったら、誰がどのエピソード言ったか分からなくなっちゃいませんか?
受かった子に話を聞くことができました。「どうして受かったと思う?どんな話をしたの?」といったら、彼女は、「私は丼屋で働いてたんです。丼屋というのは、結構ご飯を残す人がいるんです。ご飯を残すお客さんを見るたび、そんなに残さないで、捨てたくないから、と思っていました。
何でご飯を残すのか不思議だったので、私はお客さんたちをずっと観察していました。そして気付いたのが、カツ丼とか天丼とか、ああいう高カロリーな丼ものはご飯が残ることが少ないんです。逆に、マグロの漬け丼とかのヘルシーな丼ものこそご飯が残っていることが多いんです。
なぜだろうと思ってさらにくわしく見ていると、ご飯を残していたのは、たいていお年寄りか女子学生だったんです。つまり、胃が小さくて食べられる量が少ないから残していたんです。となると、こういうヘルシーでカロリーが低い女性向けの丼ものこそ、小さいサイズを作った方がいいだろうと店に提案して、小丼を作ったら、ますます女性のお客が増えた。こういう話をしてくれたんです。
これは彼女らしさが出てます。彼女はお客さんに喜んでもらうために、いつもずっとお客さんを見ている、そして問題に気づいて解決策を提案してくれる人なんだな、という彼女の良さが、僕は見えると思うんです。
さらに、彼女はこの話以外にも「お茶」の話をしたそうです。
お茶というのは四季折々で、熱いお茶を出したり冷たい麦茶を出したりします。冷たい麦茶を夏に出していたのが、だんだん寒くなってくると熱いお茶になる。熱いお茶になった頃に、秋魚が美味しくなって、サンマとかブリとかサバとか、旬で脂の乗った魚が定食になって出てくると、なぜかお茶をほとんど飲まずにトレーを下げるお客が増えてくるんです。彼女は栄養学やっていたので、この理由を知っていました。どういうことかというと、お茶に含まれるタンニンと魚の脂が口の中で科学変化を起こして、お茶の渋みを強めるんです。
だから、寒くなっても、青魚の定食に関しては緑茶を出すのをやめましょうと、彼女は提案しました。緑茶を出すのをやめて、あったかい麦茶を出しましょう、という提案をしたんだそうです。周囲を見ながらその場に適した提案をしっかり出せる。そういうところが評価されたんだと思います。
会社が誰を選ぶかということ、何のために面接があるかということ、内定を取るためにあなた達が何をしなきゃいけないのかということ、よく分かったのではないでしょうか。「アルバイトで頑張ったんです。一生懸命頑張って、先輩にすごく褒められて、すごいって言われたんです」みたいなこと、面接で話してないですか?その類の話は、まったくあなたらしさが見えてこないので、差別化ができないんです。
要らない話をいくらしても意味はないです。日常生活の中で構わないから、5W1Hがしっかりしている話をすること。嘘じゃないこと。あなたの売りがしっかりわかる話であること。そして、差別化できるエピソードであること、これらの要素について考えてみてください。
聞いた相手が納得できるような話の構成にも気を遣ってください。よく、「私はすごいこだわりがあるんです」という人がいます。「この作品がすごい好きです」「この漫画家が好きです」という人がいる。そのなかで「その漫画家ってどういう人なの、どんな生い立ちなの?」って言うと、「え?すみません、知りません。」とかなっちゃう人がいるんです。「本が好きで、何回もその本読んだんです」「じゃあ、一番好きなフレーズ言ってください」って言うと「ええと」って言う人もいます。それだと整合性がないじゃないですか。嘘八百じゃないですか。もしそこまで言うなら、ちゃんと整合性があるように、「彼は過去こういうことをやって、それはこうこうこう…」と言うと、ほんとうにこの人オタクで、その分野の情報を集めるのが好きなんですね、みたいなことが特性としてわかる話をするべきです。いい加減な話、整合性がない話はしないでください。
Q.就活では“成功談”しか評価されないんですか?となると、失敗談は話さない方が良いのでしょうか?
そんなことはないです。失敗談だって、ちゃんと評価されることはあります。隠さず話していいと思います。
たとえば、私の知っている学校では、少し前に学生が急性アルコール中毒で亡くなるという事件がありました。それ以来、学生同士の飲み過ぎは全学で問題視されるようになって、タブーになったんです。
そんな中、文化祭打ち上げで、とあるサークルのメンバー全員が徹夜で飲むことがありました。大イベントが終わった達成感からつい深酒となって、酒の弱い後輩が救急車で運ばれるということが起きてしまいました。この場合、そそのかした先輩達は退学になる可能性があります。なので、先輩たちはみんな蜘蛛の子を散らすようにサッと逃げてしまった。でもそのままにしといたら、酔いつぶれた彼は死んでしまいます。だからメンバーの一人が、彼を放っておけずに救急車を呼んだ。呼ぶだけじゃなくて、彼はそのゲロまみれの彼の友達を、洋服脱がせて、水で洗ってあげて、部室からジャージ持ってきて着せてあげて、それで救急車が来るの待っていたんです。逃げることもできたのに、車にも一緒に乗って病院に行ったんです。それで飲んだ酒の量、ペースの速さ、何の酒を飲んだか、こういうもの全部救急士の人に聞かれて、それに全部答えたんです。
また、彼は病院にいる間に、自分のお母さんにも電話してるんです。お母さんに電話すれば、バカ野郎と怒られるはずなのに、正直に事情を説明しているんです。電話して、そしたらお母さんが来ることになった。でもその前に警察が来て、彼はいろんな話を聞かれた。いろんな話を聞かれたけれども、彼はサークルの先輩たちのことを話さなかった。現場にいた仲間はその日初めて会った人たちで、名前がよくわからない、と言って先輩達をかばったんだです。
すごく良い話だと思います。けど、この話で彼は企業に落ちまくりました。こんな話したら、たとえば銀行みたいなルールに厳しい業種は、はい、さようならです。コンプライアンスに厳しい企業は、この話を真摯に聞いてはくれないでしょう。
けれども、彼は一社だけ受かっています。葬儀のプロデューサーです。おそらく葬儀のプロデューサーって、彼みたいに義理堅くて面倒見がいい人が欲しいんだと思います。
みなさん、面接のために用意するエピソードがどういうものかわかったのではないでしょうか。そしてその用意に、皆さんが「盛る」と言っている、根も葉もない話の脚色行為じゃなくて、聞いた相手が納得のいく構成、具体的なエピソード、こういうものが入った話を話さないといけないんです。
ちなみに、実はこの人、この話を私に聞かれるまでずっと隠していたんです。なぜかというと、キャリアセンターのキャリアカウンセラーに相談したら、その話は相手の心象を悪くする「危ない話」だから言っちゃダメです、そんな話したら企業はあなたを落とします、って言われたんだそうです。
私からすれば、バカを言うな、と言いたいですね。堂々としろ、と私なら彼にアドバイスします。たとえ言ったことで企業に落ちまくったとしても、最後は彼のように、自分の性格に合った企業に受かることもできるからです。
皆さんも、これで自分が本番で何を話せばいいか、だいぶ見えたでしょ。面接って慣れれば楽です。どこの企業も面接で聞くことって大体同じだから、5社10社受けるとツボがわかってきます。だから早いうちに、ラジオ体操代わりに1社毎日受けに行ってください。それだけで何とかなります。はい、じゃ、おしまいです。
一同 (拍手)(終了)
こうして大盛況のうちに「就活のススメ講座」は幕を閉じた。海老原氏の講演で、みなさんも「就活」で気をつけなければならないことが理解できたのではないだろうか。「企業によって採りたい人材は違うこと」、「自身の行動の“PDCAサイクル”を面接で語ること」、「ライバルとの差別化を図れるエピソードを語ること」、「聞いた相手が納得する話の構成であること」、そしてなにより「あなたらしさが出る話であること」が重要なのだ。
これから苛烈化する大手企業の選考前に、この「事実」に気づいて対策をとれば、面接もきっと苦にならなくなる。自分が今までの経験によって得てきたものを信じて、堂々と「あなた」を面接官に語ってほしい。
☆「7割のエントリーシートはほとんど読まれずに捨てられます!」-雇用のカリスマが語った人事のホンネと“就活”のホント(前編)はコチラから☆
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海老原 嗣生 (えびはら つぐお)
1964年生まれ
コンサルタント、編集者。株式会社ニッチモ代表取締役。株式会社リクルートエージェント ソーシャルエグゼクティブ、株式会社リクルートワークス研究所 特別編集委員。
上智大学経済学部を卒業。 リコーを経て、リクルートエイブリックに入社。新規事業や人事制度設計に携わるほか、系列のリクルート ワークス研究所で『 Works 』 の編集長にも就任した。 2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任すると同時に、リクルートエージェントの第1号フェロー社員となり、人事経営雑誌「 HRmics 」の編集長になる。 「雇用のカリスマ」と呼ばれ、漫画『エンゼルバンク』の作中人物“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデルでもある。
■この記事の詳細は、海老原さんの著書『なぜ7割のエントリーシートは、読まずに捨てられるのか?―人気企業の「手口」を知れば、就活の悩みは9割なくなる』で読めます!
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