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左から森高夕次氏、三田紀房

「グラウンドには銭が埋まっている!」というセリフが飛び出す、異色のプロ野球マンガ『グラゼニ』。原作者・森高夕次氏と三田紀房のトークLIVE「金の話をしよう!」が、天狼院書店の主催で行われた。マンガに出てくるお金ネタ、そしてマンガ家稼業の実態――。お金の話はやめられません!→前編はこちら

マンガ家と野球選手、生き残りが大変なのはどっち?

三田 もともと私は実家の衣料品店を継いで商売していたんですよ。それで経営に失敗して痛い目に遭って、マイナスをカバーするためにマンガを描き始めた。家業を継ぐ前は百貨店に勤めていましたが、いろいろ経験した中でマンガ家がいちばん儲かると思います(笑)。要するに誰かが作ったものを仕入れて店頭に並べて売って、その中から経費を引いて利益を出すのって、すごく大変。マンガ家は自分が生産者になれます。自分が作ったものを売って利益が出せるから効率がいい。

森高 確かに、マンガ家はワンルームマンションで一人だけで始められますから、初期投資がいりません。在庫も持たなくていいですから、リスクは低い商売ですね。

三田 そうそう。ただ、雑誌連載はコストパフォーマンスが悪い。アシスタントに給料を払ったり、かかった経費を引くとあまり利益が出ない。その投資分は単行本の印税で回収して、なおかつ利益を出すというビジネスモデルです。

司会 そうはいっても、マンガ家って相当に狭き門でしょう。誰でもなれるわけではありません。

三田 よくそう言われますが、私は逆にめちゃくちゃ間口が広いと思ってます。

司会 え?! どこがですか。

三田 だって、ほぼ全雑誌が毎月のように新人募集しているじゃないですか。「マンガ家にどうやったらなれるんですか?」とよく聞かれるけど、どこかで描けばいいだけ。そうすれば引っかかる可能性が高い。日本のマンガ産業ほどオープンで、常に新人を募集している業界は珍しいですよ。

森高 確かに昔より雑誌の数が多いし、マンガ家になる間口は広がりました。ただ、デビューしやすくなった一方で、売れなくなるとすぐに忘れられてしまうのも事実です。

三田 まあ、厳しい生き残りゲームですね。

司会 マンガ家とプロ野球選手と、生き残りが大変なのってどっちでしょう。

三田 それは圧倒的にプロ野球でしょう。何せトータルの選手の数が決まっていて、1球団の上限は70人ですから、10球団全部合わせて700人。新しく選手が入ると、誰かが出て行かなければいけません。それに比べて、マンガ家は人数制限がなくて出入り自由ですからね。

森高 確かプロ野球選手の平均年齢って27~28歳ですよね。あくまで平均した年齢ですから、もっと若くして引退する選手もたくさんいるということ。あと、「年棒〇億」とかが新聞のタイトルに踊るような選手は本当に一握りです。例えば若いうちに年棒5000万円とかで引退までに10億円稼いだとして、その収入が本当に多いのかどうかって考えるんですよね。

司会 サラリーマンの生涯賃金は2~3億円といいますから、随分多くないですか。

森高 一気に稼ぐと、税金が引かれて下手したら半分くらいになりますよね。しかも若いうちにそんな大金を手にすると、老後に備えて貯金して少しずつ使うなんてなかなかできない。どうしても金遣いが荒くなって、残りの人生が大変になるのではないかな。

三田 やっぱりマンガ家のほうが生き残りやすい(笑)。

司会 お2人はマンガを描くときに、ヒットするかどうかとか考えますか。

森高 私は作品が成功するかどうかは、そんなに考えていないですね。とにかく書きたいことがたくさんあるので、「自分がやりたいことをやらせてほしい!」という気持ちが強い。

三田 私も先のことはあまり意識していません。ヒットしそうなアイデアを出そうとか、考えてもどうせ大したものは出て来ませんから(笑)。多くの人は雷にでも打たれるようにアイデアが湧いてくると信じていて、うまく出て来ないと自分の才能を疑って落ち込んだりします。私は最初からそんなことは期待せず、1話先、2話先のことに集中する。余計なことを考え過ぎて、自信がない状態のまま世の中に作品を発表しても人の心には届きません。世の中で勝っていくのは強い意志、強い意見のほうです。

森高 目の前の仕事に集中するというお話、私もまさにそうですね。最近はインターネットで読者からものすごく速く直感的な反応が返ってくるようになりました。そうすると、どうしてもアプリのPV数とかツイッターのフォロワー数とかを気にしますけど、もうちょっと腰を落ち着けることが大事だと思います。評価はもちろん気になりますが、媚びてはいけません。物書きとして、最後は「読む人が読んでくれればいい」という開き直りが気持ちのどこかにあるんですよね。

司会 それは全ての仕事について言えることですね。他人の評価より、自分が面白がってやるからこそ仕事の可能性が広がっていく。目の前の作品に全力で取り組んでいれば、お金も評価も自然とついてくるのでしょう。今日は、お2人がマンガで成功している理由がわかった気がします。ありがとうございました!

 

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               ⓒ森高夕次・アダチケイジ/講談社

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