「異質な組み合わせ」がイノベーションを起こす
情報や技術がオープンになり、人々に共有される時代。
他者とのコラボレーションを考える上で欠かせないのが、「組み合わせ」という視点だ。誰と組むか。どんな情報や技術をミックスするのか。組み合わせの妙が価値を生む。私が可能性を感じ、応援しているベンチャー企業の例を出そう。
1つは、陸上競技用の義足を開発している「Xiborg(サイボーグ)」という企業。ここは、チーム構成が絶妙だ。
元五輪陸上選手の為末大氏をはじめ、米マサチューセッツ工科大メディアラボで博士号を取得し、ソニーコンピュータサイエンス研究所で義足を研究している遠藤謙氏。ソチパラリンピックのチェアスキー開発に関わった、工業デザイナーの杉原行里氏。さらに人工知能やGPSの信号解析・画像解析を習得した後、設計・開発者として数々のプロジェクトにかかわってきた田原哲雄氏。スポーツ選手、エンジニア、プログラマーにデザイナーという、異質な才能の組み合わせ。こういうところから、未来のユニークなものづくりは生まれてくる。
他にも、電気自動車を製造・販売している「GLM」という京都大学発のベンチャーがある。水平分業・ファブレスの発想で、モーターや二次電池など、必要な部品は専業メーカーに任せることで開発費を抑えている。小さな企業なので、足りないところはどんどん借りてくるというスタンスなのだ。
特に面白いのは、シャーシ(車体)を重点的に開発して、車体のみで安全性を確保する特許を取得したこと。つまり、自社でシャーシを作り、ボディ(外装)は他社とコラボレーションできるようにした。この方法によって、顧客は好きなデザインのボディを選んで世界に1台しかない電気自動車を作ることができる。これが国内はもちろん、アジアや欧州でウケがいい。
ボディのデザインについては、これまで自動車会社がお金をかけて開発してきた、素晴らしい財産が残っている。それを捨てるのはもったいない。エコな電気自動車に乗りたいけど、これまで乗っていた自動車のデザインを気に入っていて変えたくないという消費者のニーズもあるだろう。電気自動車の基盤技術という「シーズ(種)」と、社会の「ニーズ(要望)」を非常にうまく組み合わせた例だ。
こういう「シーズとニーズの組み合わせ」が、ベンチャーを成功に導く。
私は、GLMはいずれアジアのテスラモーターになると、わくわくしながら応援している。
新しい時代に成功するというのは、既存のビジネスモデルを破壊することに他ならない。iPodの成功が音楽業界の考え方を変えた結果であることは、誰の目にも明らかだ。日本が得意とする垂直統合のものづくりだって、GLMのようなベンチャーによって別の方法が模索されている。
「B.I(Before internet)」から「A.I(after internet)」の移行というのは、それくらい強烈なインパクトを社会に与える。
2027年までの12年間、時代は急激に変化する。
古いビジネスモデルは徐々に衰退するのではなく、一足飛びに瓦解する。
「変わらない」ことは何よりも大きなリスクになる。
盤石にみえる金融業界だって、これから12年の変化をただ見ているわけにはいかないだろう。国家が管理する通貨をみんなが使う時代は終わりを迎えている。民間が発行するポイントや仮想通貨など、リアルを持たない通貨を多くの人が日常的に使う時代になった。政府は規制したいだろうが、関与しきれないお金の流通量は増える一方だ。国家やメガバンクを脅かす、新しい形の金融業がいつ出てきてもおかしくない。
そもそも、私は未だに銀行のキャッシュカードを持ち歩かなきゃいけないことが不思議でしょうがない。こういうものはもう、インターネットだけで完結できる時代になっているのではないかな。「お金を使う」という行為が、人々の間では既にバーチャルな行為に変わりつつあるのに、それを救い上げるサービスがない。これは金融業界に限ったことではない。あらゆる業界で、リアルとバーチャルの世界の組み合わせ――「バーチャライゼーション(仮想化技術)」をうまく使える企業が伸びていくと考えている。