財前:社長は自分でいろんなアイデアを考え出し、行動されています。発想の源はどこにあるんですか。
中川社長:それは、誰よりも長い時間を費やして考えているからだと思います。伝統工芸という狭い世界のことをずーっと考え続けているし、経験も積んできたから、他の人よりもいい解決策を思い付きやすい。そうはいってもぱっと思いつくわけではなくて、問題意識をくすぶらせておく時間も必要なんです。そういうしんどさを経て、あるとき集中するとアイデアが出てくる。私の場合はなぜか、土曜日の会社でいいアイデアを思い付くことが多いですね。
財前:「誰よりも長い時間を費やす」ってさらっと言われていますけど、実際は大変なことですよね。いつも仕事のことを考えているんですか。
中川社長:仕事のことを考えない日は、1日もありません。仕事が趣味だとか、働くのが楽しいというのって、なんだか寂しい人に見られるかなと思って表に出さずにいたのですが、最近は堂々と言うようにしています。学生時代に好きだったゲームも全くやらなくなりました。現実世界のほうが何倍も面白いし、刺激的ですから。
財前:すごい!仕事が楽しいって堂々と言えるのって、なんだかかっこいいです。これから働く若い人や、仕事で迷っている人にアドバイスはありますか。
中川社長:まず、会社を選ぶときには規模ではなく価値観が合うかどうかを重視すべきです。当社はビジョンを決めてから、目指す方向性が社外に伝わりやすくなり、求人のミスマッチが減りました。働く人にとっても、価値観の近い会社でないと頑張る意義が感じられず、仕事がつらくなると思います。
財前:自分の価値観とマッチする会社を選べば、苦労もやりがいと思えるんですね。
中川社長:ただし、仕事というものは最初から楽しくてやりがいがあるものではないということを、若い人は肝に銘じておくべきです。先日、会社の中で「若い従業員があまり楽しくなさそうだ」という声が耳に入り、そのときにサッカーに例えてこんな話をしました。「高校の部活レベルの人間がJ1チームに入ったら、最初はボールにも触れないし、練習についていけないから楽しいはずがない。サッカースタイルが違うとか、そういう次元の話じゃない。楽しくないと言う前に、まず上手くなるよう努力するのが先。上手くなれば、自然と仕事は楽しくなる」。
Photo by TANAKA Juuyoh(CC BY 2.0)
財前:上手くなるまでは文句を言うなってことですか。確かに、僕も麻雀を始めたときは先輩についていけなくて、つまらなかったなあ。上達して勝てるようになると、楽しくなる。
中川社長:世の中ではスポーツ選手が努力するのは「プロだから」と言いますが、会社員だってお金をもらっている以上は同じなんです。むしろ日本で一番プロ人口が多いのが会社員なのに、上手くなるために自主練をするとか、そういう努力をする人が少な過ぎると思います。私たち経営者も同じで、自分自身のレベルを上げていけるよう、仕事の中で常に意識をしています。
財前:意識を高く持つって、すごく大事なことだと分かりました。目標が大きいと大変なことも多いけど、その分だけ力がついて楽しくなるんですね。貴重なお話をありがとうございました!
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中川淳(なかがわ・じゅん)
1974年生まれ。
京都大学卒業後、2000年富士通入社。
02年に中川政七商店に入社し、「遊 中川」の直営店出店を始め、工芸をベースにしたSPA業態を確立する。
08年に13代社長に就任。新ブランド「粋更kisara」「中川政七商店」などを立ち上げる。
09年業界特化型の経営コンサルティング事業を開始。
著書に『奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり。』など