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本日より、いよいよ2017年卒の就職活動が解禁となりました。しかし、まだまだ将来なんて想像がつかない人も多いのでは?

そんな学生の方に、“今”知っていただきたいのが「ベンチャーキャピタリスト」という職業だ。「ベンチャーキャピタル」とはベンチャー企業に資金の提供や経営支援を行い、新しい事業の“芽”を育てる仕事を指す。若い人も活躍するチャンスのある大きな可能性と価値を持つ仕事とも言われている。現在、DeNAや楽天やなど時価総額1000億円を超えるベンチャー成功例がいくつもできてきて、盛り上がりつつある日本のベンチャー界において、脚光を浴びつつある職業「ベンチャーキャピタリスト」について、この分野で15年来、第一線で活躍する磯崎哲也さんに伺いました。


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Profile

  • 磯崎哲也(いそざき・てつや)

    長銀総合研究所のインターネット産業のアナリスト等の後、ベンチャーの世界に飛び込み、カブドットコム証券やミクシィの社外役員、中央大学法科大学院兼任講師などを歴任。現在、Femto Growth Capital LLP ゼネラルパートナー。著書に『起業のファイナンス』(日本実業出版社)、『起業のエクイティ・ファイナンス』(ダイヤモンド社)。人気ブログ・メルマガ「isologue」も公開中。

日本ベンチャーは「生態系」確立が急務

 『インベスターZ』の影響もあるのかもしれませんが、最近、ベンチャーキャピタルをやりたいという若い人がたくさん出てきました。少し前までは、そんなこと想像もできませんでしたから、たいへんうれしいです。
 ベンチャーキャピタルとは、将来性のある新進企業への投資や経営支援をおこなう仕事です。作中で財前くんは、ベンチャー企業への投資を試みますね。彼がやろうとしているのは、まさにベンチャーキャピタルそのものです。
 そうした仕事をしている人を、ベンチャーキャピタリストといいます。ですが、いまのところ日本では、独立して活動しているベンチャーキャピタリストは、まだ数えるほどしかいないのが現状です。
 だから、この分野に少しでも興味を持って、参入してくれる人は大歓迎。参入者が増えても、全く困りません。まだまだ規模の小さい日本のベンチャー界が考えなければいけないのは、何をおいても、この分野における「生態系」を築き上げることだからです。
 生態系とは、「ベンチャーを取り巻く人々の有機的な協力関係」のこと。起業を促進し、ベンチャーの世界を活性化させるには、この生態系を大きく育てていくことが必須です。2000年以降、日本でもDeNAや楽天やなど時価総額1000億円を超えるベンチャー成功例がいくつもできてきて、ベンチャーに必要な、経営・技術・財務といったノウハウを持った人たちが多数生みだされました。こうした人たちが、新たな起業家や投資家、サポーターとなってきており、日本のベンチャー生態系は今、次のフェーズに進もうとしています。


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credit.66「希望の森」より

若くてもできる?!ベンチャーキャピタリスト

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 ただ、「若いうちからベンチャーキャピタリストなんて務まるの?」という疑問も浮かびますよね。
 でも大丈夫です。一つの企業と付き合い、ともに育っていくには、いろんなアプローチのし方があり得ます。
 例を挙げてみましょう。米国では、1970年代後半以降、インテルにいたジョン・ドーアや、編集者だったマイケル・モリッツといった、金融業の経験がない人たちがベンチャーキャピタリストとなって活躍し始めました。ベンチャーキャピタルは、お金の知識も必要ですが、それよりはるかに重要なのが「事業を成長させるための知識や経験」なのです。
 そうした、すごい経歴を持った人でももちろんいいのですが、ベンチャーを立ち上げる起業家には若い人が多いので、落ち込んでいるときに若者同士で肩を組んで励まし合ったり、いっしょに汗をかきながら成長していくキャピタリストがいてもいいと思うんです。自分に知識や経験がない部分は、それができる別の人を呼んでくればいい。
 株式のことは英語で「share(分け合う)」と言います。投資というと、「他の人を出し抜いて一人でやるもの」というイメージがあるかもしれませんが、ベンチャー投資は、経営者、エンジニア、投資家、事業会社など、いろんな能力をもった人や会社を巻き込んで、企業が成長した成果をみんなで分かち合えるのがすばらしいところです。だからこそ「生態系」が重要なんです。
 「そんなにベンチャーが好きなら、自分自身がベンチャー経営者をやればいいじゃない?」という意見もよくあります。
 自分で事業を興すことに関心があり、先頭に立ってものごとを進めるのが得意な人は、ぜひとも起業して経営者になってください。しかし、人にはいろいろなタイプがあり、得意領域があります。一人一人が、自分が最も得意なやり方でパワーを発揮することが、その個人にとっても社会全体にとっても、望ましいことなんじゃないかと思うんです。

サポートすることが、性に合っている

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 私もベンチャーのすばらしさに触れた当初は、経営者としてベンチャー企業を運営することも考えました。けれど、やっていくうちに、いろいろな企業を広く見ながらアドバイスやサポートをしていくほうが、私の性に合っていると思ったのです。
 アニメや戦隊ヒーローものをテレビで観ている子は、ふつうならライダーやウルトラマンに変身する主人公に憧れますよね?でも四十歳直前に、「自分が今後の人生で本当に惑わずやれることは何か」と考えている時に、幼いころを思い返してみたら、そういえば自分は、主人公よりも、仲間が使う新兵器を開発する「博士キャラ」に萌えていたなあ、と(笑)。「三つ子の魂、百まで」ということわざが本当ならば、私はやはり、自分がヒーローになるよりも、ヒーローの力を引き出す役こそが向いているんじゃないかと思いました。

 以前は、銀行系シンクタンクで経営コンサルタント、産業アナリストとして勤務していました。1998年に、現在のカブドットコム証券株式会社の立ち上げ準備でベンチャーの世界に触れ、2001年からは独立してベンチャーのサポートをしてきました。
 上司の指示で動いていた立場から、みずからの意思によって大海原を突き進むような世界に。孤独感と心細さ、同時に完全な自由というものを初めて味わって、「こんな楽しい世界があるのか!」と心から思いました。

今の日本にはとてつもないチャンスが

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 ベンチャーキャピタリストとして、今後どんな領域に注目しているか、というと、私は「テクノロジカル・シンギュラリティ(技術的特異点)」に注意を払っています。今後人類の歴史上初めてすべての領域で「機械」のほうが人間のパフォーマンスを上回る時代が、これから20年以内に確実にやってくると考えています。その時は、人間の仕事がソフトウエアやロボットによって置き替わっていくということが起こるはずです。その置き換えが可能な分野は、生産効率が良くなり、価格も下げられるはず。したがって大きな需要が見込まれ、伸びていくはずです。
 「日本は少子高齢化で、今後は衰退するばかりだ」と悲観している人が多いですが、私は全く逆だと思います。人件費の安さを売りにして、いろいろな商品の生産拠点が作られて今は成長しているように見える発展途上国も、人間より優秀な「100万円で耐用年数4年」といった機械が登場したら、賃金の安さだけでは勝負できなくなります。
 また、逆に「人の居場所」をつくる分野にも、大いに注目しています。仕事が機械に置き替わっていけばいくほど、わずかに残された「人間がやるべき領域」「人間が疎外されずに心やすらげる場所」の価値は高まります。
 そうした時代にも、クリエイティビティに関することは人間の最後の領域として残る可能性があります。日本は、漫画やアニメはもちろん、飲食業を見ても、ミシュランの星の数で世界一、食べログ3.5以上のラーメン店が四千軒以上もあるという、とてつもないクリエイティビティとチャレンジ精神のある国なんですよ。
 「日本人は民族的にリスクが嫌い」というのはウソです。日本では、FXや個人向け社債といったリスクの高い金融商品が、世界でも類を見ないほど個人に売れています。20年後にも、財産を保有し最終的意思決定を行うのは、ロボットではなく「人」であることは間違いありません。
ただし、個々の人の能力やチャレンジ精神は優れていますが、たくさんの人や資金を集めてビジネスとして急速に成長させる能力、すなわち「ベンチャー」のノウハウだけが、日本はまだすごく弱い。でもだからこそ、挑戦することを恐れない人にはチャンスがたくさんあると思うんです。
 例えば、リブセンスという会社があります。社長の村上さんが学生のころに始めた会社で、人材派遣や、アルバイトの求人サービスなどを行っている会社です。現在の資本金は2億円超なのですが、上場前の資本金が1500万円なんですよ。1500万円って、片っ端から親戚や友人に頼めばなんとかかき集められる額ですよね。そんなお金で成功を収められるのは、日本だけなんですよ。これがもしアメリカだったら、新しいビジネスにチャレンジしようとする人はたくさんいるので、巨額の資金を投じて同じようなビジネスモデルをやろうとする会社が次々出てきてしまいます。日本には新しいビジネスを創りだそうという人は比較的少ないから、少ない資金でもビジネスを始めることができるんです。

 ベンチャーキャピタルは、10回トライして9回失敗しても、残りの1回が20倍になれば、それで大成功です。9割失敗して大成功と言われる仕事が存在するということを、ほとんどの人は知らないのです。また、ベンチャーで失敗するというのは、最先端の領域にチャレンジした証であり、他の誰にも無いノウハウがたまるわけですから、むしろその経験が高く評価されることも多くなってきています。
 今の日本は、とてつもないチャンスが転がっている状況ですが、まだそれに気づいている人は非常に少ない。たとえ失敗したとしても、新しい領域でビジネスをやったことがあるという経験はものすごい価値があるんです。なぜなら、誰も足を踏み入れていない領域で、事業を起こした本人にしか知ることの出来ない情報を得られるわけですからね。だから挑戦者の数が少ない領域に、狙いを定めて起業すれば、競争者のいない市場をごっそり勝ち取ることができると考えています。
 この時代にベンチャーやベンチャーキャピタルをするというのは、大きな可能性と価値を持つことなのです。若いうちから、そうした道に進むこともぜひ、選択肢として考えておいてもらえたらと思います。

出典:『インベスターZ 8巻』巻末記事

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