本編の「四季報編」や、日経平均の歴史を紐解く「コツコツドカン編」で資料を提供してくれた四季リサーチ代表の渡部清二さん。『会社四季報』が大好きで、「読めば読むほど企業を知る喜び、社会を知る喜び、そして人生を知る喜びが湧いてくる」という四季報マニア・渡部さんからたっぷり知識を享受しよう!
『会社四季報』は人生を豊かにしてくれます。私は、『会社四季報』は単なる会社銘柄を調べるためだけの道具ではなく、れっきとした「読み物」だと思い、19年間継続して計73冊の四季報を全ページ読破しました。50万円超の大枚をはたき、創刊号からの約29万ページを収録した四季報DVDも買いました。当面の目標は「100冊読破」。一生のうちに、その倍は読みたいですね。
そう、お気づきの通り、私は四季報マニアです。ただの趣味ではありません。私の仕事は「自立した投資家の育成と支援」ですから、四季報読破から得たアイデアを国内外の機関投資家に提供しています。ちゃんと実益を兼ねているのです!
なぜ四季報読破にこだわるのか。それは、『会社四季報』が「継続性・網羅性・先見性」を兼ね備えた、世界にも類を見ない書物だからです。マンガでは「幕の内弁当」と表現されていますが、私流に表現するなら、「お宝がつまった宝石箱」とでも言いましょうか。
マンガに出てくる通り、全上場企業の情報を1冊にまとめたものは、海外には存在しません。一国の企業がどういう変遷をたどったかを網羅的に調べるのは、海外の場合、とても大変なんです。しかし、日本には『会社四季報』がある。『会社四季報』は創刊から80年もの間、全上場企業の情報を集め続けてきました。「継続性・網羅性」において抜きんでた存在です。創刊号の巻頭言には、こうあります。1936年、戦前に書かれた文章ですね。
「言うまでもなく会社は生きたものである。殊に投資的対象として株式会社を見る場合には、日々刻々の息吹を知る必要がある。だから年に一回しか発刊されぬ便覧のたぐいではその目的には不充分だ。そこで吾々は、もっと頻繁に、三ヶ月毎に刊行する『会社四季報』を作ったわけである」
これぞまさに、日本のおもてなし精神。記載方法などは常に改善され、読みやすく、投資家が有益な情報を得られるように心が砕かれています。
さらに「先見性」があるというのは、四季報読破をしていると株式市場の相場観が身に付き、先の流れがある程度見えるようになるのです。これを私は「買い物上手の主婦の法則」と呼んでいます。いまここで、キャベツがいくらかを聞かれて言えますか? 私は言えませんが、毎日チラシを見て買い物をしている主婦であれば、去年はいくらだったけど今年は高いとか、ぱっと答えるでしょう。今だったら大根のほうが安くてお買い得だとか。チラシを隅々まで毎日見ることで、感覚をつかんでいくのと同じことが、四季報読破でも言えるのです。
ホテルとリサイクルが
「生い立ち」でつながる?!
効能はわかっても、『会社四季報』は分厚いし辞書のようでとっつきにくい。そう思う人は、まずページをめくって目に付いた会社の事業内容を見てください。道端にあるマンホールのふたを作っている会社から、電柱やガラス窓を作る会社、タクシーやバスを運行する会社などが出てきて、私たちの生活はすべて企業とつながっているのだとわかります。
私が好きなのは、1586年創業の東証一部上場会社、松井建設です。加賀前田藩の城大工として事業を始め、いまも寺社建設を続けています。京都や鎌倉で修復中のお寺には、たいてい松井建設の垂れ幕がかかっていますよ。
例えば、東京でホテル椿山荘を運営する藤田観光。筆頭株主には、なぜか環境・リサイクル事業を行うDOWAホールディングスが出てきます。歴史をたどると、DOWAホールディングスは明治時代に藤田伝三郎が創設した関西の名門、藤田財閥が前身です。伝三郎は長州藩出身で、高杉晋作に師事して騎兵隊に入り、同郷の山縣有朋ら政界の重鎮と親交がありました。そう、椿山荘は山縣有朋の邸宅として作られた建物です。山縣の死後、藤田財閥二代目が椿山荘を譲り受けたことがきっかけで、両社がつながります。藤田観光は、藤田財閥の観光部門が独立した会社なのです。
だんだんわかってきましたか。四季報が教えてくれるのは株式の知識だけではない。私たちが生きる社会、世の中全般への理解を深めてくれるのです。
未来予測のカギは
目の前にある!
証券会社に勤めていたころ、相場の先を読むための訓練として先輩から教えられた「指標の書き取り」と「新聞の切り抜き」は今も続けています。指標の書き取りというのは、日経平均などの主要データを手書きで毎日ノートにつけること。今の時代、インターネットを使えば瞬く間にデータを集められますが、それだけでは相場の流れが見えません。日々の動きを手書きで追っていくことで、相場の転換点や、事件・事故との関連性などが段々見えてきます。野球のスコアブックは、記録し続けることによって選手やチームの特徴が見えて試合の対策がしやすくなりますよね。あれと同じです。
新聞の切り抜きは、見方が偏らないようにあえてオピニオンが異なる二紙を選んでいます。証券マン時代には、毎朝5人くらいで新聞の気になる記事を選び、自分の考えを述べる「読み合わせ」をしていました。そのとき、先輩に「経済面だけでなく社会面も見ろ」と言われたのが印象的でした。例えば、1999年の新聞に載っていた川崎公害裁判の和解が成立したという記事。これは世の中の環境問題への意識が変化し始めたシグナルであり、実際、その後の企業活動に環境という視点は必須になり、それをビジネスとする会社も増えました。このようにニュースも株価も、単発で見ていては流れがわかりません。日々の観察と記録によって、「つながり」に気付くことが大事なのです。未来を予測するカギは遠い先ではなく、実は目の前にあるのです。
いま、私が注目している流れは「ジャポニズムの再来」です。海外では和食ブームが続いており、焼き鳥や寿司を作る加工機械の輸出が急増しています。工場の日本回帰のニュースも多く、アップルが横浜に工場を作ったりしています。訪日外国人客数が年々増加し、春節の時期に中国人観光客が「爆買い」するニュースは、すっかりおなじみになりました。個々のニュースをつなげてみると、ジャポニズムは明らかに大きな時代の流れです。
では、なぜジャポニズムの「到来」ではなく「再来」と呼ぶのか。かつて同じ流行が世界を席巻したときがあったからです。1860年から1910年までの約50年間、欧米を中心にジャポニズムが流行しました。ゴッホやモネが浮世絵の影響を受けたことは有名ですが、他にもたくさんの事例があります。例えばルイ・ヴィトンのLVマークは日本の家紋、ティファニーの陶磁器は竹やあやめなど日本の文様をデザインに取り入れています。日本人女性が大好きな欧州の高級ブランドも、ジャポニズムの影響を受けていたのです!――と、まだまだ話し足りないですが紙面が尽きました。さ、今日も四季報を片手に研究、研究!(完)
【渡部清二氏 プロフィール】
1967年生まれ。野村證券株式会社で中堅企業および個人投資家向け資産コンサルティングと国内外のプロの機関投資家向け日本株セールスに従事した後、独立。2014年に「自立した投資家の育成および支援」を目的とした四季リサーチ株式会社を設立。2016年、新たに複眼経済観測所株式会社を設立、代表取締役所長
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