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みずから起業し、家計を見直すしくみを開発したのが辻庸介さん。だれもが避けては通れない「お金」との向き合い方、付き合い方を教えてもらおう。

自分のお金に無頓着すぎる人が大半

だれの人生にも関わってくるのがお金の問題です。「もっとしっかり考えたい!そのうえで、この漫画の財前たちと同じように、投資なんかもぜひしてみたい。」

そう思い立ったときには、いきなり難しいことに取り組む必要なんてありません。第一歩は、自分の足元に転がっているんですよ。まずは家計についてしっかり考えてみればいいのです。自分のお金の流れをつかみ、常にお金を意識するようになれば、自分の経済状況はもちろん、ものの見方にまで、いい影響が出てくるはずです。

ちょっと振り返ってみてください。あなたはどれほど、家計について把握していますか。たとえば会社員であれば、収入のことは会社が給料を払ってくれるわけで、こちらがどうこうできる話ではないので放ったまま。支出や税金、保険のことなどは両親や奥さんといった家族に任せっきり。そんなパターンが多いのではないでしょうか。

そもそも、自分にいくら収入があるのかだって、正確には把握していないことも多いでしょう。ひと月にどれくらいお金を使っていて、支出先は何が多いのか。現金の余裕はどれくらいあるか?いくら税金を払っているのか。コンビニに毎月どれだけお金を使っているか。飲みに行く代金は?ちょっと思い起こせば、日頃どれほどお金に無頓着であったか改めて気づくはずです。

家計簿は誰にとっても便利なツール

お金の知識は、自分から学ぼうとしなければ、誰も教えてくれません。お金のことはほとんどノータッチですからね。そして、お金について何も知らない状態でいると、実はものすごく損をしていたりします。家計についても、お金の流れ方をちょっと丁寧に見ておくことで、月に1万円くらいすぐに節約できるものです。

インターネット証券でマーケティングの責任者をしていた私は、そんな「日本のお金の現状」を変えたいと思い立って、起業をしました。始めたのは、「マネーフォワード」というウェブサービスです。
これは、家計簿を手軽に自動で作成できるアプリ。約1800の金融機関にサービスを対応させて、銀行口座のお金の出入り、クレジットカード、通販、携帯電話、ポイントカード、マイレージなどの動きをすべて把握し、ユーザーの収入や支出がひと目でわかるようになっています。
現金払いでお金を使ったときには、スマホで項目と金額を打ち込んだり、レシートを撮影してデータを取り込みます。そうすれば、何にいくら使っているのか、どれくらいカードなどのポイントがたまっているかなど、すぐに集約・整理されていきます。

株式投資などをしているのであれば、その情報もここで一元管理できます。さらに、いくつかの銀行に分けて持っている預金なども集計して、自分の資産全体の様子と推移もすぐに見られる様になっています。資産はどうしても分散しますので、いま全体がどういう状態なのか、ちゃんと把握できている人は意外と少ないのではないでしょうか。

日々忙しく過ごしていると、自分がどれほどお金を使っているか、ゆとりはあるのかどうかなどがわからなくなって、どこかの時点でつい細かく考えるのをやめてしまいますよね。それではいけない。知ろうと努めることが、お金とうまく付き合う第一歩であり、何より大切なこと。食べたものや体重の推移を記録するだけで効果が上がるという「レコーディングダイエット」と同じことです。意識するだけで行動は変わり、結果もついてくるのです。

お金の「使い方」を工夫して、オトクな支出を

家計と資産の状態を自分自身でしっかり理解すること。まずはそれが肝要なのですが、さらにいえばその先がまた大事になってきます。家計のしくみというのはたいへんシンプルにできていて、お金を増やそうと思うなら収入を増やすか、支出を減らすか、運用して持っているものを増やすしか手はありません。

いきなり収入を大幅に増やすのは、なかなか難しいですよね。ですが、残りのふたつは、意識の持ちようでなんとかなります。マネーフォワードは、そのためのアドバイス機能をどんどん強化させています。

たとえば持っているものを増やすというと点で言うと、ここには各種カードの利用履歴が蓄積されていきますから、それをもとに、さらにポイントやマイルを貯めるにはどうすればいいかを割り出してお奨めすることができます。「この使い方ならば、最適なクレジットカードはこれです」と提案できるのです。1回ずつのポイント付与はささやかなものかもしれませんが、束になるとかなり大きいですよ。ポイント関連をうまく活用するかどうかだけで、1年につき10万円単位の違いが出てくることもあります。

今後、資産運用についても、「これまでのお金の使い方や資産状況から考えるとまずはこの運用方法がいいのでは?」といったアドバイスができる様にしていく予定です。誰しも、あまり面倒なことはやりたくない。もっと楽に、気軽にお金について学び、自分のお金を活かしていくことのできるしくみを構築しましょう。

人生で「損」しないため、自己投資と資産管理を

お金という側面から考えていくと、自分の成長やライフプランも、見通しを立てやすくなると思いますよ。お金は、生活をつくり出し維持していくためのツールに過ぎない。それは事実ですけれど、必要なときに必要なだけのお金があるかどうかによって、人生の選択肢が決まってくるという面もあります。実際の行動だけではなく、思考だって「お金の都合がつかないからこれはできないな……」などと、無意識のうちに制約をかけてしまったりするもの。人生で無駄な「損」をしないためにも、お金にはちゃんと向き合っていくほうがいいのです。

お金という視点を忘れずに、自分のキャリアをどう築けばいいか。これから先、大手企業に就職しても、自分の会社員としての寿命より先に企業の寿命が尽きてしまう場合も容易に考えられます。仮に入社から20年で勤めている会社が倒産したとして、40歳前後になっている自分の市場価値はどうなっているのか。そこで自分の市場価値がピークになるように、逆算して何をすべきかを決めるのがよいのではないでしょうか。

 その観点からすれば、財前君のような中学生だったら、注力すべきは英語とお金とプログラミングの勉強です。この3つを習得していれば、この先どうあっても生きていけます。お金については、先に述べた通りです。英語は、実践で話せる技能を身に付けるべき。わたし自身、30歳を過ぎてから米国に留学したのですが、最初は英語がまったく通じなかった。日本の英語教育を呪いたくなりましたからね。

プログラミングについて言えば、これまでは機械やインフラなど、ハードウェアの時代でしたが、これからは、ソフトウェアの時代になるはずです。つまり、パソコンを創る産業よりパソコンの中で活用できるソフトウェアを開発する産業が成長して、今後ますますプログラミングの技術を持つ人材への需要が高まると、私は考えています。

就職をするときも、ただ流されるままに大企業を目指すのが本当にいいのかどうか。一度、立ち止まってよく考えてみることです。大きなところを選ぶのは、漠然と「安心」を得ようとしているのでしょうが、はたしてその企業は30年後も存続しているかどうか。生き残れない可能性のある企業は、けっこうありますよ。大きな組織はどうしても仕事が分業になりますから、汎用性のある知識や技能を習得するには時間がかかるかもしれません。仕事ができる・できないの違いは、能力というより実は経験の差が大きい。若いとき無自覚に大企業で過ごすと、40歳時の自身の市場価値にかなり不安を残すことになりかねません。

自己投資も資産の管理も、クルマの運転と似たところがあります。経験を重ねるほどうまくなる。ですから、できるだけ早いうちから、少しずつでもいいので、資産管理も意識的にしていくほうがいい。面倒だからと遠ざけたりせず、お金を味方につける人生を、ぜひ探っていきましょう。

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    辻 庸介 (つじ・ようすけ)

    マネーフォワード代表取締役社長CEO。1976年大阪府生まれ。京都大学農学部卒業後、ソニー株式会社入社。マネックス証券、ペンシルバニア大学ウォートン校留学を経て、2012年にマネーフォワードを設立。

出典:インベスターZ7巻巻末記事

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