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10年後に残る仕事は、今ある仕事の半分、または90%がなくなるなどと、各メディアでもよく語られるようになったが、私たちはそんな時代にどう対処したらよいのだろうか。これまで頻繁に英語やプログラミングを学ぶ必要性が叫ばれてきたが、本当に必要なのだろうか。

その疑問を解決するべく12月15日(木)発売の『ビジネスの世界で戦うのならファイナンスから始めなさい。』(CCCメディアハウス)の著者でもあるTIGALA代表・正田圭さんにインタビューを行った。「今、身に付けるなら英語、プログラミング、MBAでもなく、ダントツでファイナンスです」と彼は述べる。私たちが学ぶべきファイナンスとは何か。なぜ今ファイナンスなのか。正田さんの話を聞こう。


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TIGALA代表・正田圭さん

本当に役立つファイナンスとは

-改めてお聞きしますが、正田さんがおっしゃるファイナンスとは何ですか?

正田さん:世間一般では、ファイナンスは、企業の資金調達や、資金運用であったり、ビジネススクールで学ぶものといったイメージがあるでしょう。また、財務関係の仕事をしている人がすること、または数式を使った計算などといったイメージを持たれるかもしません。しかし、私が今回出した本で述べている「ファイナンス」とはそれらとは大きく異なるものです。

私が主張する「ファイナンス」とは、モノの価値を見抜くことで、自らビジネスの種を見つけ、リスクを取って、それを実行していくことです。

このことをよく理解してもらうために、私が中学生だった頃の話を使って、説明しましょう。

私が通っていた学校の食堂では、コップに入ったポテトが200円で売られていました。ポテトを食べて、空になったコップを返すと食堂のおばちゃんが100円をキャッシュバックしてくれました。ですから、実質ポテトの価格は100円です。残りの100円はデポジット料金のようなものです。

当時、クラスの友達がコップを返却しに行くのが面倒臭がっていることに気づいた私は、ここにビジネスの種を見つけ、コップを彼らから50円で売ってもらい、買い占めたのです。食堂にコップを返却することで100円もらえますから、50円でコップを買い取り、それを売ることで50円の利益を取ることができます。その点に私は着目し、大量にコップを買い占め、需給バランスによって容器が値上がり、そのタイミングで大量に売ることができれば大きな利益になると考えたのです。

実際にコップの値上がりを期待して、ずっと持ち続けて2年くらいたつと、コップが返ってこないため、おばちゃんたちが困って、「コップを返してくれたら200円キャッシュバックします」となって、予測通りポテトの容器が値上がり、ポテトの価格も300円になりました。私が買い占めたことで、コップは倍の額になったのです。そして、買い占めていたコップを返したことで、私は中学生としては大きな小遣い稼ぎができました。

ポテトのコップのように、モノの価値というのは状況や場面によって変わります。たとえば、ペットボトルの水であれば、みんなは100円だと思っているけれど、スーパーではそれよりも安く売られていたり、あるいは砂漠で売られるような水だったら100円よりももっと価値が高まるでしょう。

このように、モノの値段というのは、実は正解がないのです。実際に、先ほどのポテトの容器の話で言えば、100円の価値だった容器が、モノが不足したことで価値が倍に上昇しました。これはこういう理由でこの値段、こういう状況だったらこの値段になるのではないかと考えることが、先ほど述べた「モノの価値を見抜き、自らビジネスの種を見つける」、つまり「ファイナンス」の入り口になるのです。

ビジネスの種を見つけるところまででは「ファイナンス」とはまだ言えません。もしかしたら、ポテトではない別の食べものが新たに200円で販売される可能性もあったかもれしません。実際に、中学卒業間近になって、まだ値段があがらなくていつ上がるんだろうと私も不安になった時期がありました。もし、販売が中止になれば、1つのパックにつき50円の損失になります。中学生のおこづかいの金額を考えると少なくない金額です。自分のお金を損失するかもしれない恐怖を乗り越えないと相応のリターンを得ることができません。みんなから集めた容器を売るのをじっと待ち、2年後くらいに食堂のおばちゃんに返却することで純利益20万円以上を僕は手にすることができました。

みなさんが身に付けるべき「ファイナンス」とは、このようにモノの価値を見抜くことでビジネスの種を見つけ、リスクを取って、それを実行していくことです。これまで認識されてきたファイナンスとは大きく異なることがわかるでしょう。

-なるほど、実際に直近でファイナンスを企業が使っている例はありますか。

正田さん:最近の例であれば、DMM.comが挙げられます。
DMMがアフリカビジネスを手掛けており、社員10人に対して、一人ずつ100万円を持たせてアフリカに行かせたことが話題になりました。会社の成長戦略として5年後、10年後を見据えた新市場の開拓のために打ち出された施策ですが、本当に真面目に新規ビジネスを探してくるのかという心配などあったことでしょう。しかし、社内に新規ビジネスの立ち上げノウハウがあること、そして、東南アジア諸国が経済成長したあとに続くものとしてアフリカを捉えていることがこの挑戦を後押ししたのです。トータルで1000万円以上の額を費やしたとしても、それを回収できるだけの利益が出せるという計算を亀山会長はしたのでしょう。

中国・インドをはじめ、東南アジアなどには既に多くの日本企業も進出していますが、アフリカには実は財閥系のような目立った大企業が進出していません。言ってみれば未開の地です。
アフリカでは、通貨がインフレを起こしたり、預金口座を持っていない人が普通に存在しているような地域もあり、それを受けてDMMが電子マネーのビジネスをはじめたと聞きます。現地に行った社員が、生活者の実態を理解し、そこからビジネスの種を見つけてくるというスタンスです。

アフリカという未開の地が持つ、底知れないマーケットの大きさ(価値)をDMMは見出しました。実際に挑戦したら失敗する可能性もありますが、そういったリスクを負って、ビジネスの種を見つけて、実行する。これは、「リアルオプション」と呼ばれる、不確実性の高いアップサイドのリターンを取りにいく、最先端のファイナンスの技法になります。

-モノの価値を見抜き、ビジネスの種を見つけ、リスクを負って実行していくことでリターンを得る。これらすべてが揃って「ファイナンス」なのですね。徐々に理解できてきたところで、あえて伺いたいのですが、なぜ「ファイナンス」が必要なのでしょうか。

正田さん:それは、サラリーマンであれば飛躍的に高額な報酬を得るための武器になり、その武器を持った人材が今ビジネスで強く求められているからです。

一般的なサラリーマンの平均年収は300万円~600万円、エリートのサラリーマンでも2000万円〜3000万円が相場です。

しかし、サラリーマンであっても、ソフトバンクの前副社長を務めていたニケシュ・アローラ氏は年収165億、日産のカルロス・ゴーン氏も雇われ社長ですが年収10億円もあります。足し算のように知識やスキルを積み上げていくやり方では、私たちが彼らのいる世界に飛び込むことは絶対にできません。

この人たちが持っている武器が何かというと、「ファイナンス」なのです。彼らは「ファイナンス」を使いこなし、さらに発展させることで、あるいは企業内部の人や、組織を動かしたり、また外部の人に対しても、説得したり、協力を得たりと交渉力を発揮しています。その技術の対価として、カルロス・ゴーン氏やニケシュ・アローラ氏には高額な報酬が支払われているのです。彼らのようなタイプを私は「事業家」と呼んでいます。

現在、ビジネスの世界では、「事業家」としての人材が圧倒的に不足しており、企業のトップは「事業家」を求めています。

しかし、「ファイナンス」はまだごく一部のビジネスのトップエリートしか知らないため、ほとんどの人が「ファイナンス」における技術を持っていません。また、ファイナンスに関わる税務の整備が整ってきたのも6年前の2010年とファイナンスの活用がようやく日本でもされてきたという状況で、英語やプログラミングの世界とは違って、身に付けている人が圧倒的に少なく、ライバルがいないので、「ファイナンス」は勉強のしがいがあって、非常に戦いやすい分野なのです。

メディアでよく取り上げられる「10年後も残っている仕事」の中には、交渉力や意思決定や判断を要する仕事が多くあります。

「ファイナンス」を発展させると、人や組織を動かすことができるようになるとお話しました。ビジネスをダイナミックに動かすことができるのは、「ファイナンス」が思考の拠り所となって、交渉力や意思決定を発揮できるからです。

ですから、「ファイナンス」を身に付けることは、自身のビジネスにおける武器になり、さらに将来10年、20年先の備えにもなるのです。ビジネスの世界で戦うのなら、英語やプログラミングよりも「ファイナンス」を身に付けることをダントツでおすすめします。

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    正田 圭(まさだ けい))

    1986年奈良県生まれ。15歳で起業。インターネット事業を売却後、未公開企業同士のM&Aサービスを展開。事業再生の計画策定や金融機関との交渉、企業価値評価業務に従事。
    現在は自身が代表を務めるティガラグループにて、ストラクチャードファイナンスや企業グループ内の再編サービスを提供。その他、複数の企業の社外取締役やアドバイザリーを務め、出資も行っている。著書に自身の15年間のキャリアを振り返った『15歳で起業したぼくが社長になって学んだこと』(CCCメディアハウス)がある。

★著書紹介
『ビジネスの世界で戦うのならファイナンスからはじめなさい。』
こちらでご購入頂けます。

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■目次
PART1 ファイナンスとは何か
1章 事業家はなぜ巨額報酬を受け取るのか
2章 ファイナンスに関するよくある勘違い
3章 ファイナンスには教科書がない?

PART2 ファイナンスの最前線
4章 企業は勝ち続けなければならない存在である
5章 M&Aとは何か
6章 M&A、儲けのカラクリ
7章 企業を再生するファイナンス
8章 世界最大の投資銀行ゴールドマン・サックス
9章 得体の知れないファンドの正体
10章 成長を飛躍させるベンチャーファイナンス

PART3 これからの未来をどう作るか
11章 不確実性が高いからこそファイナンスの世界にはチャンスがある
12章 最先端のファイナンス思考法

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