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ビジネスでなきゃ意味がない(後編)
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<ポイント>
高野さんの【お金の教養】後編
・人と違うことをするほうが成功しやすい
・勝つまでやり続ければ、負けない
・仕事の面白さを決めるのは自分
「株屋」と言われた
業界に就職する
僕は理系の大学院を卒業して、金融バブル真っ盛りの1987年に大和証券に入社した。当時、証券会社のイメージは今よりかなり悪くて、ゼミの先生に「お前は株屋になるのか」と驚かれたくらい。就活で理系の学生に人気がある企業といえば、NTTやIBMだった。それなのになぜ、金融業界を選んだのか。
「人気のある業界で、同期入社1000人のうちの1人になってもしょうがない」「競争相手が少ないほうが入社してから意見が通りやすく、好きなように仕事ができる」。そう考えた僕は、若いころから山っ気があったんだろう(笑)。ちょうど就職活動中に、クライスラーの元会長のリー・アイアコッカが日経新聞に寄稿した論文を読んだこともきっかけになった。そこには、「リスクを取らなきゃリターンは得られない」と書いてあった。当たり前のことだけれど、その言葉が腑に落ちた。「リスクを取ってリターンを得る人生っていいな」と、シンプルに思えたんだ。
振り返ってみると、この選択は正しかった。僕は27年間金融畑を歩んだが、業界はどんどん成長し、金融ビッグバンを経て外資系金融も日本の市場で成長を目指すようになった。僕はその後も、新たなキャリアをいつも小さな規模から始めた。大和証券を経て転職したゴールドマン・サックスの日本法人で、僕が所属したアセットマネジメントは小さな部署だった。そこでなんでもやって仕事を覚え、実績を上げた。その後、社長となったピムコ日本法人では、7000億円程度だった運用資産を10兆円にまで伸ばすことに成功した。大企業の業績をさらに大きく伸ばすよりも、可能性を秘めている小さな企業を大きくするほうが簡単だし、やりがいがある。最初は直感で、その後は実際の経験から、このことに気付いていった。
2014年、僕はピムコジャパンの社長を辞めた。最高のパフォーマンスを上げて、金融業界ではもう十分にやり尽したという達成感があった。正直、ベテランとしてのアウトプットが増えて、新しいインプットができない状態への物足りなさもあった。会社からは「残ってくれ」と言われたし、同業他社からのヘッドハンティングはいまでもある。でも僕は、安定したイスにどっかり座って定年を待つのは性に合わない。
だから金融業界を離れて、畑違いのメディア業界で自ら事業を興し、『フォーブスジャパン』の編集長兼CEOになった。自分がより成長できる世界に身を投じて、価値を生み出すビジネスモデルを作ることで、もっと社会に貢献したいと思ったからだ。
実際にやってみると、事業を自分の手で興し、育てるって大変なことだ。フォーブスジャパンの仕事を始めたころは、「金融でお金を稼ぐなんて簡単なことだったな」と思ったよ(笑)。いまの僕は能力をフルに使って、難しい挑戦をしている。でも大変だからこそ、面白さもけた違いだ。そして、僕は負ける気がしていない。いままでの人生でも、ビジネスマンとして負けたことがないからね。
負けない方法は
「勝つまでやる」こと
「負けたことがない」なんて、強がりだと思うだろうか?いや、そうじゃない。正確にいうと、勝つまでやり続けたということだ。一度うまくいかなかったら、うまくいくまで挑戦を続けて復活を狙う。僕が思うに、成長曲線というのは直線じゃない。上がったり下がったりの細かい波を打ちながら、長いレンジで見ると右肩上がりになっている。だから、調子が悪いときには、その後のジャンプに備えて深く屈むことが重要だ。会社の業績でいえば、不況のときにはコストを削減して研究開発をしながらじっと我慢して、次のチャンスを待つことができるかどうか。勝ち負けは必然じゃない。結局、自分自身が決めることだ。
同様に、仕事が面白いかどうかを決めるのも、自分だと思う。僕が1997年に大和証券に入社したとき、最初に与えられた仕事は『会社四季報』のデータ打ち。傍から見ると単調で誰にでもできる仕事かもしれないが、そんなことはなかった。ひたすらデータを打ち込んでいると、会社コードを覚え、その会社の売上高や規模、利益率などを覚えていく。そのうち、ぱっと見ただけでおかしい数字に気付けるようになり、どんどん面白くなっていく。どんなことでも、一生懸命やると面白さが出てくるんだね。何かにつけ「つまらない」「自分がやりたい仕事と違う」と言う人は、まず目の前のことを全力でやってみるといい。
僕は『フォーブスジャパン』立ち上げと同時にベンチャーキャピタルに資本参加し、起業家のスタートアップ支援と投資を行っている。『フォーブスジャパン』を名刺代わりにビジネス界のいろんな人と会い、価値を生むビジネスを見つけたら長期投資をして応援する。世の中の役に立つことにお金を投じるのが、僕が人生の後半戦でやるべきことだと思っている。
最終的には、「何のためにお金を稼ぐか」が大切なのであって、お金もうけはプロセスでしかない。人生をかけて稼いだお金を何に使うかに、その人の人柄が明瞭に出る。僕は、社会を変えるイノベーター、志の高い若い起業家たちの支援をしたい。自分でお金を作り出し、資産を築いてきたからこそ、人生でやりたいことが成し遂げられる。それは幸せなことだと思う。
起業家の将来に何千万、何億と投資をしながら、ふだんの僕は牛丼の割引券をもらったら律儀に取っておくくらい、金銭感覚が細かい(笑)。裕福じゃない家庭で育ったので、一円でも十円でもムダに使いたくないという感覚がいまも残っている。でも、だからこそ大きな投資をできるのだと思う。「ランチに千円以上は、高いよな」という感覚をなくしてしまったら、お金に振り回され、人生におけるふつうの幸せを見失ってしまう気がする。仕事でどんなに大金を扱っても、自分を実生活につなぎとめる重しとして、“ふつうの金銭感覚”がある。この感覚を僕はとても大事にしている。
成功は特別なことではなく、日常の地続きにある。些細なことでも一生懸命やって、能力を伸ばしていくことの積み重ね。それを継続できる体力と、ポジティブな気持ちさえあれば、人生の成功を手にすることができるはずだ。実際に僕は、そうやって人生を切り開いてきた。ぜひあなたも、今できる最大限の努力をしてほしい。それが将来“なりたい自分”になるための、最も尊く、有益な「投資」なのだから。(終わり)
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高野 真
早稲田大学大学院理工学研究科卒業後、大和証券、ゴールドマン・サックス・アセッ ト・マネジメント、ピムコジャパンリミテッドを経て、2014年6月に金融から出版に転じ、 株式会社アトミックスメディア代表取締役CEO及びフォーブス ジャパン編集長に就任。 2015年9月より、Genuine Startups株式会社ファウンダー&共同代表を兼務。日本経済新 聞の連載に寄稿するなど、資本市場全般に関する論文・著書多数。1992年度証券アナリ ストジャーナル賞受賞
☆『フォーブスジャパン』http://forbesjapan.com/
*目次
【前編】誰かが損をするのはあるべきビジネスの姿じゃない
【後編】勝つまでやり続ければ、負けない
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