藤田美雪のインベスターPにならって、10万円くらいで投資をしてみたい――。しかし、いざ投資を始めようとすると、二の足を踏んでしまう人も多くいることだろう。今回の記事は、そんな人にこそ、読んでほしい内容だ。投資先の選び方は、何か特別なものだと思っているかもしれないが、実はすごく簡単。普段の身の回りの生活や街中をよく観察すれば良いだけなのだ。その一例として、ファンドマネージャーである藤野氏はヤマダ電機やビックカメラなどの家電量販店へ行くことを勧める。
「10万円投資」のポイント1
まずスタート、そして
「小さく、ゆっくり、長く」
10万円で投資なんて、額が少ないように思える? そんなことはありません。売買できる株はじゅうぶんありますし、額の多寡によって有利・不利が生じることもなし。それに、投資はとにかく始めてみることが大事です。
第一歩を踏み出すときのコツは、「小さく、ゆっくり、長く」です。
「小さく」とは、自分にとって、手に汗を握らない程度の金額から投資すべきということ。株式投資という行為そのものは決して危険ではありませんが、人生が揺らぐほど大きな額を注ぎ込んでしまえば支障があって当然。だから「これが消えてなくなるかも」と考えてみて、手に汗をかかない程度の額にしておくのが好ましいのです。
その金額は、人によって異なりますよね。億単位の資産を持つ人なら、百万円でもドキドキしないかもしれない。10万円なら何とかという人もいるでしょう。きついようなら、無理せず3万円でもだいじょうぶ。気持ちが乱れない額を自分で設定しましょう。
「ゆっくり」も重要です。株を始めるときは、あまり一気に買わないほうがいい。10万円使うなら、ひと月ごとに3万円ずつ使って買い足していく。そうして時間と銘柄を分散させれば、株価の動きがそれぞれ変わり、変化の曲線がマイルドになる。リスク回避のうえで有効な方法です。
「長く」続けることも心がけましょう。何事も数日やっただけでノウハウはたまりません。投資は、世の中の景気に大きく影響されます。数年単位の景気サイクルをひと通り眺めて、ようやく投資家としての眼ができるといわれています。できれば3年くらいは、投資を肌で学ぶ時間をつくりたいものです。
「10万円投資」のポイント2
身近なものに目を向ける
さて、10万円投資の「対象」を決めるにはどうすればいいか。ぜひ実践してほしいのは、できるだけ身近なものに目を向けることです。
ここでいう「身近」とは、物理的に近いこと、心理的に近いことのどちらも指します。自分に近しい対象に投資したほうが、成功する確率はぐっと高まります。価値ある情報を知らず握っていたりするものなのです。
たとえば中学生は、いまどんなゲームが流行っているか、いちばんよく分かっていますね。大人がいくら必死にリサーチをかけても、決して及ばないほど詳しい。彼らこそ流行の主体であり、ゲームの最も近くにいる存在だからです。
どのメーカーに勢いがあり、これから人気が出そうなゲームは何か。ユーザーならば、すぐに気づくことができるはず。その実感に基づいて企業を調べ、株を買ってみれば、値上がりする確率は高いでしょう。
「パズドラ」で知られる企業ガンホーは、近年株価が高騰しました。若いユーザーのなかには早い時期から「これ絶対おもしろい、きっとみんなハマるに違いない」と思った人がいたのでは? そこでガンホーの株を買っておけば、何十倍にもなった可能性は大いにあったのです。
私たちのファンドが近年大きな成果を挙げた銘柄に、メガネのJINSがあります。ピーク時で株価は買値の数十倍になりました。これをなぜ見つけられたか。チームのファンドマネジャーがたまたま店で眼鏡を買いました。そのとき行列ができていたのに驚き、使ってみると軽くて丈夫で商品の質もよかった。これは人気が出て当然、もっと伸びる企業だと感じた個人的な体験から、株の購入を決めたのでした。
こうした身近な実感に基づくものこそが、「儲かる情報」といえるのです。
「10万円投資」のポイント3
現場に行こう
投資対象を見極めるうえで、もうひとつおススメしたいのは、現場に足を運ぶことです。
経済の現場とはどこか。デスクとPCが並んでいるオフィスではない。街のなかです。買い物客でにぎわうデパートやスーパー、客を乗せて走る鉄道や飛行機、多くの人が集う観光地。そういうところに身を置いてこそ、経済の実体を知ることができます。
とりわけ、「上場企業の巣」とも呼べるいい現場がありますよ。ビックカメラやヤマダ電機などの大手家電量販店です。
大規模店に行くと、ほんとうに何でも売っているものです。PC、スマホ、カメラ、テレビ、電子レンジ、ヒゲソリにゴルフクラブまでありますよ。これらを、興味のあるなしにかかわらず眺めていくと、いろんな点に思いが至ります。
「スマート化」の名のもと、家電がどんどんIT化していること。近年価格がずいぶん下がったものと、そうでないものがあること。ノートPCなら最新型がいくら、ミラーレスカメラならいくらといった価格帯のメドもつかめるでしょう。
膨大な商品やサービスのなかから、「これはいい、他とは違う」と思えるものが見つかったら、その企業の株は買ってみる価値ありです。
家電店の定点観測、これを自分の習慣にしてみてはどうでしょう。毎月一度は必ず足を運んで、すべてのフロアをぐるぐると見て回る。そうすれば必ずハッと気づくことがある。おカネをかけずに得られる投資・経済情報の宝庫が、ここにあります。
投資と聞くとすぐに、プロは秘密の情報でも握っているのだろうと思われますが、そんなことはまずありません。たいていは誰もが触れられる公開情報をもとに、投資はおこなわれています。努力すれば得られる情報をどう探し出し、見落とさないようにするかが問われるのです。
家電店めぐりはきっと、あなただけの強力な情報ソースになってくれますよ。
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藤野 英人 (ふじの ひでと)
投資家、ファンドマネージャー。野村証券やJPモルガンなどの資産運用会社を経て、2003年にレオス・キャピタルワークスを創業。最高運用責任者として、成長する日本株に投資する「ひふみ投信」を運用し、高パフォーマンスを上げ続けている。その秘訣は『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)『儲かる会社、つぶれる会社の法則』(ダイヤモンド社)に詳しく掲載。
出典:『インベスターZ 3巻』巻末記事