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本編で財前が圧倒された、生命保険のセールスレディ。巧みな営業トークで保険への加入を迫るが、実際私たちの生活に保険は必要なのだろうか。約15年にわたる保険営業の経験から、保険の商品や販売手法を疑問視する保険コンサルタントの後田亨さんに話を訊いた。
2時間話を訊いた編集者が衝撃を受けて、15年間入っていた生命保険を解約!その気になる話の内容とは・・・。

私は、横浜から都内を中心に生命保険の選び方や見直しなどの相談業務を有料で行っています。

相談内容の本質は皆さん同じです。保険に関する判断に、自信を持てないでいる。無理もありません。お金と不幸が絡むテーマですし、保険料に見合う価値があるのか、よくわからないからです。

 保険は確率論でつくられた金融商品です。病気や怪我、死亡など、歓迎したくない事態が起こる確率をもとに「アクチュアリー」と呼ばれる保険数理の専門家が保険料を算出しています。

保険料には当然ながら保険会社の取り分が含まれています。その割合は、ほとんどの保険で伏せられていますが、試算することも出来ます。

たとえば、ある大手生保で、30歳の男性が向こう15年間、1000万円の死亡保障を持つ場合、保険料は月に2800円。15年分の支払い総額は約50万円です。これに対し、厚生労働省のデータから、30歳の男性が15年以内に死ぬ確率は約1・6%。これを試算すると、保険金支払いに必要なお金は1000万×0・016で約16万円。つまり、50万円から16万円を引いた残りのお金は、運営費等にまわると推計できます。保険専用ATMに50万円入金すると、手数料が34万円引かれるイメージです。

もちろん、保険会社の健全な経営のために、運営費が確保できる価格設定になっていることは大切です。とはいえ、程度問題だと思うのです。会社、商品の違いや、被保険者の年齢、性別などで異なるものの、アクチュアリーの助言を得て行った試算では、お客様に死亡保険金や入院給付金として還元されるお金の割合は、70~30%程度のものが多い。

お金の流れだけを見ると、保険はギャンブルと変わりません。幸運に賭けるか、不幸に賭けるかの違いでしょう。しかし、競馬の賭け金の還元率が75%、宝くじでも46・5%だと知るとどうでしょうか。保険の還元率は、ギャンブル以下とも言えるでしょう。
保険は「入れば安心」ではなく、「入るほど損が膨らみやすい」。

営業しながら抱き続けた
保険への不信感

私もかつては生命保険の営業をしていました。アパレルメーカーからの転職を考えていた時に、会社に出入りしていた日本生命のセールスの女性から営業職を募集していると聞いて入社したんです。

飛び込み営業ばかりで大変でしたが、交渉のコツがわかった気がして、仕事が面白いと感じた時期もありました。日本生命には約10年勤め、05年に複数社の保険を扱う代理店に移りました。営業のかたわら、ずっと感じていたのは、本当に保険が私たちの命や財産を守るための優れた手段なのか、という疑問です。結局、保険販売の仕事を辞めたのは、お客さんにはかなり不利な仕組みだと考えるようになったからです。

恐ろしいのは、こういう疑問を持たない人のほうが営業成績を伸ばしやすいということです。保険会社では、まともな金融教育が行われていません。あくまで販売員養成教育です。もちろん、保険料の何%がお客様に還元されるのかといったことも教わりません。

保険料の内訳などがわかると、積極的に営業できなくなる人もいるかもしれません。でも歩合制だから、新規契約が途絶えると収入もなくなる。もともと新規の見込み客を増やすのは難しく、辞めていく人が多い世界です。私には同期の営業担当者が38人いましたが、3年目には2人になっていました。大手はどこも5年で全員が入れ替わるくらいの離職率です。

保険会社の社員は
保険に入っていない?

生命保険が売れるのは、「ストーリーの力」があるからだと思います。ガンになった時、入院した時――などピンチに陥った状況を語ることで、困った時にお金が支払われる保険が輝いてみえるのです。某保険のCMでもガンを経験した某芸人が「ガン保険をナメていた」というようなことを語っています。しかし、マンガ本編にも出ていますが、多くの場合、ガンになっても必要なお金は100万円程度。自己資金で対応できる人も少なくないでしょう。ところが、貯蓄を取り崩す際の心の痛みに焦点を当てると、展開が変わってきます。「大病にかかり、出費がかさむ時の不安は耐え難いもの。保険に入っていれば、貯蓄を減らさずに済みますよ」と。ストーリーが、人の判断を変えてしまうのです。

保険に頼りたくなる時というのは、要は「お金が必要な事態」ということ。お金があれば解決できるのだから、貯金でも、親からもらったお金でもいいわけです。実際、保険会社の内勤で保険の仕組みを理解している人ほど、医療保険などには入りたがらない。給付金で入院費用を賄おうとすると、コストが高くつくと知っているからです。

ストーリーに乗せられてしまうのは日本人の国民性なのか……。それはわかりかねます。ただ、日本人は勤勉だとよく言われますが、私は〝従順〟だと感じています。空気に流されやすく、自分なりに考えることにおいて、とても怠慢だと思うのです。

保険の営業をしていた頃も、そんなことをよく感じていました。親に勧められた、友達が良いと言っていた、などと周囲の人間の意見を持ち出してくる方が多い。しかし、親御さんやご友人は保険のことをしっかり勉強しているでしょうか。そうでないのなら、彼らの真似はしないほうが無難でしょう。でも、不安は残るし、考えるのも苦手なので、早く手を打ちたい。結果「皆もそうしているから、入れば安心」となる。正しい判断をするより、早く気が済むことが優先され、異論も敬遠されがちです。

実際、こんなことがありました。ある医療保険に入りたいという人に「保険料の約3割は運営費ですから極力、入らないほうが良いと思いますよ」と言ったら、「明日入院したらどうするんですか!」と反論されてしまった。お客様が求めていたのは、「転ばぬ先の杖って大事ですよね! それでしたら、●●保険の▲▲▲特約なんかオススメですよ」というような、保険に入りたい気持ちを肯定してくれる「これで安心ですね」という対応だったのです。

保険金・給付金を受け取れる条件や特約と呼ばれるオプション、保障期間など、契約内容が複雑なことも保険の販売促進に一役買っていると思います。同種の保険でも比較がしにくいので、考えることを諦めてしまうんです。で、「皆はどうしていますか?」などと聞いてしまう。そうなると、営業担当者は楽です。「皆さん、こちらの保険に加入していただいています」と言えばいい。

成績が良い営業担当者は、話す力より、相手を見る力があると思います。与しやすい人を選び、ツボを押さえた営業をかける。私も2年目くらいで、「細かい説明より、相手が聞きたがっていることを中心に話すほうが良い」と気づいたから、10年以上生き残ることが出来たんだと思います。

かつて、上司がこんなことを言っていました。
「よくわかっていない奴(営業マン)が、もっとわかってない奴に保険を売っている」
 まさに、至言でしょう。

取材・文/中川明紀

※後編は2月10日(金)に掲載予定です。

出典:『インベスターZ 16巻』巻末記事

  • 後田 亨(うしろだ とおる)

    オフィスバトン「保険相談室」代表
    1959年、長崎県生まれ。長崎大学経済学部卒。アパレルメーカー勤務を経て、日本生命と複数社の保険を扱う代理店で約15年、営業職を経験。営業マンと顧客の「利益相反」を問題視し独立。2007年、「生命保険の『罠』」(講談社)がベストセラーに。2014年より現職。保険の有料相談に従事しながら、執筆・講演を積極的に行い、売手の都合から離れた情報発信を続ける。「がん保険を疑え!」「保険会社が知られたくない生保の話」など著書多数。

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