三田紀房×藤野英人対談(前編)
中学生が投資する学園漫画『インベスターZ』を連載中の三田紀房さんと、「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人さん。「日本人はお金が大好きなのに、本心を隠している!」というのが2人の共通認識だ。私たちを取り巻く経済とお金について、目からウロコの対談をお送りする。
藤野英人(写真右)
投資家。ファンドマネージャー。1966年生まれ。早稲田大学卒業後、野村證券、JPモルガン、ゴールドマン・サックス系の資産運用会社を経て、2003年にレオス・キャピタルワークスを創業。成長する日本株に投資する「ひふみ投信」を運用し、高パフォーマンスを上げ続けている。次世代への投資のため、明治大学商学部の講師も長年務める。ツイッター:@fu4
藤野:『インベスターZ』の中で特に好きなのが、経済の歴史が出てくる場面です。第二次世界大戦中の株式市場の実態とか、日露戦争のファイナンスとか、すごく面白くて。
三田:実は経済史って学校の授業でほとんど習わないんですよ。一般的に語られる「歴史」は、武将の戦いと彼らが成功に至るプロセスといった、いわば政治の話が中心です。でも人間が昔から続けて来た営みの実態は、働いて食べて生きていくこと。つまり経済活動です。経済があってこそ社会があり、政治があるのに、なぜ歴史の本では位置づけが逆なんだろうと思っていました。そこで経済史を紐解いてみると、面白いネタが山ほどある。漫画にも描いた第二次世界大戦の話でいうと、実は長崎に原爆が投下された8月9日まで東京では株式市場が開いていた。真珠湾攻撃でアメリカと開戦しちゃった時点で、まともな経済活動が機能しなくなったというイメージを持っていたのですが……。
藤野:そうそう。しかも、戦争中は株価がずっと上がっているんですよね。社会情勢が不安定なときは、現金を持つより株に投資したほうがいいと考える人が大勢いたということです。日本橋兜町の証券取引所は人でいっぱいで、空襲が始まるとばーっと逃げて、終わるとまた戻ってきて売買していたとか(笑)。庶民のたくましさを感じるエピソードですよね。
三田:経済は人間が生きるうえで避けて通れないテーマなのに、みんな意外と知識がない。大手企業に勤めるビジネスマンでも、給料につながる景気の良し悪しや業界内の情報くらいは押さえていても、ニューヨークの株が上がろうが「俺には関係ない」という人が多い。ましてや経済史なんてびっくりするくらい知らないですね。
藤野:軍人ではなく商人の歴史が、もっと知られるべきです。例えば明治政府が行った廃藩置県ですが、大名が既得権益を失って没落するような大改革がよく成功したなって、ずっと疑問だったんです。調べてみたら、廃藩と引き換えに政府が大名の借金(藩債)を肩代わりし、多くを帳消しにしたようです。藩財政はどこもひっ迫していたので、この条件は歓迎されました。
大変だったのは大名にお金を貸していた大阪の両替商たちで、破産が相次ぎ、道頓堀が血に染まったと言われています。逆に、明治政府の側について新たな事業に投資をした岩崎弥太郎のような商人は勝ち組として生き残っていく。時代の転換点にはこういう商人同士の抗争が必ずあったと思います。
また別の例では、織田信長が天下人として名を馳せるきっかけとなった長篠の戦い。織田軍が勝てたのは3,000丁の鉄砲があったからですが、それを調達する費用、敵にばれないように運んで試供・検品するロジスティクスなどをいかにして手に入れたのか。これだけでも調べていけば本が1冊できますよ。
三田:信長だって秀吉、家康だって、資金のマネジメント能力があったからこそ天下を取れた。つまり、権力を手にするにはお金が必要。軍事面ばかりが強調されますが、彼らがどうやってお金を手に入れたのかをもっと知りたいですね。
藤野:商人にフォーカスした歴史の本がもっと出れば、経済活動を「カッコいい」と思って関心を持つ人がもっと増えるんじゃないかな。三田さんもぜひ漫画でどんどん描いてください!
藤野:経済史を勉強すると、意外な事実に突き当たります。例えば、日本人はリスクを取らないというイメージがあるけど、実はそうじゃない。
三田:歴史の中でそういう事実が残っているんですか。
藤野:わかりやすいのは、日本の古代王朝が200年以上も続けた遣唐使。使節一行が1隻100人ずつ、4隻の船で航海したので、別名「四つの船」と呼ばれていました。なぜ分かれて乗ったかというと、往復の航路で沈まずに船が戻ってくる確率が25%だから。遣唐使はみんなエリートですよ。それを4分の3も失う覚悟で、中国に派遣して学ばせていたのだから、すごいリスクテイクです。
三田:なるほど。
藤野:発明家のトーマス・エジソンにも、あまり知られていないエピソードがあります。彼は「天才は1%のひらめきと99%の努力」という言葉で知られ、刻苦勉励のイメージがありますが、一方で自分の利益を囲いこむ“強烈な商売人”でした。
三田:確か、いくつか事業を興していますよね。
藤野:自ら起業したエジソン商会は、J・Pモルガンから巨額の出資を引き出して電機システムの開発・普及を行い、現在のグローバル大手ゼネラル・エレクトリック社 (GE)の前身になりました。すごいのはただ売るだけじゃなく、新しいビジネスモデルや業態の開発まで行い、特許を取得してお金を儲けているところ。
映写機を開発したときも、機械単体では売らず、映写機を置いた空間でビールやポップコーンを売るというビジネスをフランチャイズ形式で広めました。さらに、映写機に映った役者たちはエジソンにお金を払わなければいけないという権利まで取っていた。これはあまりにひどいということで、一部の人たちが西海岸に移って自由に映画を作り始め、ハリウッドが生まれたのです。
三田:日本人にとっては、エジソンとお金儲けのイメージってあまり結びつきません。
藤野:そうですよね。彼は特許をめぐる裁判を山ほど争っていて、がめつい面もある。でもそれを含めて天才だと私は思うし、過酷なビジネスの世界で戦ってこそ、GEのような100年企業が生まれたのでしょう。
三田:経済に視点を変えると、新しい歴史が見えてきますね。
<後編に続く>
『インベスターZ』大推薦! お金・投資本の名著『投資家が「お金」よりも大切にしていること』
藤野英人さん著『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)は、お金と経済の本質をわかりやすく解説したロングセラー。「カネ儲け=汚い」「投資は虚業」と思っている人は、考えが180度変わるかも。ここで特別に、対談を記念して本の「はじめに」と「第1章」を全文公開するので、ぜひ読んでみてください! あなたが「お金」よりも大切にしていることは、なんですか?
この「はじめに」で学べること!
① あなたが何気なくコンビニで払ったお金の行方は、無限に広がっていく!
② お金について考えることは、人生について考えることと同じ!
③ お金の稼ぎ方・貯め方・増やし方なんかより、お金の「使い方」が大事!
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はじめに~あなたがペットボトルに支払った「150円」の行方
みなさん、こんにちは。ファンドマネージャーの藤野英人です。
ファンドマネージャーといっても、少しイメージしづらい職業かもしれませんね。みなさんから集めたお金(資金・資産=ファンド)を運用する職業のことで、私はかれこれ20年以上、この仕事にたずさわっています。要は、預かったお金をいろいろなところに投資し、そのリターンを得る仕事だと言っていいでしょう。
今日は、「資産運用のプロ」として、そして、ひとりの投資家として、みなさんと一緒に〝お金〟のことについて考えていきたいと思います。
さて、いきなりですが、みなさんはお金と聞いて、どのようなイメージを持っているでしょうか?あなたにとって、お金とはいったいなんでしょうか?
まあ、あまりに漠然としていて、つかみどころのない質問かもしれませんね。
では、具体的に考えていくために、つぎの問題に答えてみてください。
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問題
あなたはコンビニでペットボトルのお茶を買いました。
値段は150円。
そのお金は、コンビニのレジに収まったあと、いったい
どこに行くのでしょうか?
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簡単な問題かもしれませんが、2、3分間、じっくり考えてみてほしいと思います。
私は、明治大学で、起業や起業家精神について学ぶ「ベンチャーファイナンス論」の授業を受け持ったりもしているのですが、そこの大学生に同じ問題を出したところ、以下のような答えが返ってきました。
学生A「サントリーとかアサヒとか、そのお茶をつくったメーカーの売上になる」
学生B「メーカーだけじゃなくて、コンビニの売上にもなります」
学生C「コンビニに商品をはこぶ運送業者の利益にもなるのでは?」
学生D「それだったら、お茶農家の人の給料にもなると思います」
こういった感じに、いろいろな答えが返ってきたのですが、どれも正解です。じつはこの問題の正解はひとつではなく、もうほとんど無限にあるんですね。思いつくかぎり、挙げてみましょう。
飲料メーカー、飲料メーカーの営業マン、コンビニエンス・ストア、レジのアルバイト、運送業者、ドライバーさん、お茶農家、肥料業者、農具メーカー、パッケージのデザイナー、イラストレーター、ソフトウェア会社、ペットボトルの素材業者、素材業者にお金を貸している銀行、消費者金融、タンカー業者、海運業者、印刷会社、印刷会社の会計担当、税理士、税務署役人、自動販売機メーカー、広告代理店、農協、塗料メーカー、タレント事務所、俳優、鉛筆製造業者、グラビアアイドル、カメラマン、コピーライター、コンピュータメーカー……and more
あなた自身は、どのような人、もしくは会社をイメージしたでしょうか?
まずは、学生の答えにもあったように、その商品を製造・販売しているメーカーの人たちですね。コンビニで購入したのであれば、そのお店の売上や、そこで働いている人の給料にも貢献しています。
つぎにイメージできるのは、商品を運送する流通の人たちや、ペットボトルを製造している人たちでしょう。ペットボトルを製造するためには、原材料である石油が必要ですから、石油会社の人たちの売上にもなっています。
そう考えると、アラブの産油国から日本に石油を運ぶタンカー会社の人たちの売上にもなっていますね。また、パッケージをデザインした人やそれを印刷している人たちの姿も見えてきます。デザインのために必要となるパソコンやデザインソフトのメーカー、印刷機メーカー、製紙業者、木材を伐採する人たち。さらに、お茶の葉を生産している農家の人たちや、そのための肥料や農薬を販売している人たち、茶畑を耕す農具をつくっている人たち……。
挙げ出すと、やはりキリがなさそうです。
あなたがコンビニのレジで特に意識することなく支払った「150円」というお金は、じつは最終的に、これだけの人たちに分配されているのです(もちろん、あなたがレジの人に渡した150円分の硬貨がその人たちに直接渡るという意味ではなく、直接的・間接的に関わる人を挙げていくと、それこそ無限大に広がっていくという話です)。
どうでしょう。〝お金〟に対するイメージが、少し変わるのではないでしょうか?
お金について考える、ということ
私たちはふだん、当然のようにお金を稼いだり、貯めたり、使ったりしていますが、「そもそもお金とは何か?」と考えることは、ほとんどありません。
最近は、小学校や中学校で金融教育を行うべきだ、という意見も多いですが(私はそれには大反対ですが、その理由はのちほどじっくり述べます)、ふつうは先生からも親からも会社の先輩・上司からも、「お金とは何か」について教えてもらうことはないでしょう。
お金は、私たちの人生に必要不可欠なものであるにもかかわらず、ある意味で、いちばん縁遠い存在でもあるのです。
私は、投資家という職業柄、お金というものを、そのいちばん身近なところでずっと見てきました。
「お金とは何か?」ということがわからないと、まったく仕事になりません。
それは、漁師が、魚の生態を知らずに漁に出るようなものです。偶然うまくいくことはあっても、長期的に成果を上げ続けることはできないでしょう。
だから私はお金について、ずっと考えてきました。とことん考えてきました。
その結果、見えてきたことがあります。わかってきた「大切なこと」があります。
それを、今日はみなさんにお伝えしていきたいと思っています。
私はここまでで「お金、お金」と連呼していますが、お金という生き物がいるわけではありません。あたりまえですよね。
そして、紙幣や硬貨がお金なのでもありません。紙幣は紙切れですし、硬貨はただの亜鉛や銅やニッケルです。150円でペットボトルのお茶を買うことはできても、100円玉と50円玉でのどの渇きを潤すことはできません。
お金とは、あくまで無色透明な概念にすぎない。ただの数字なのです。
つまり何が言いたいかというと、色がついていないからこそ、お金には私たちの考えや態度が100%反映される、ということです。
・お金を使って、何をするか?
・お金を通して、何を考えるか?
現代社会で生きている私たちは、生まれてから死ぬまでの間ずっと、お金の流れに身を投じて生きていると言っても過言ではないでしょう。お金を考えることは、まさに人生を考えることに他ならないわけです。
つまり、お金について語ることは、どう生きるべきかという「人生の哲学」を語ることでもあります。
私たちは、人生のあり方をお金に投影しているのです。
本屋さんに行けば、「転職で年収1000万円!」や「33歳から始める節約貯金生活」、「FX投資で資産を築く55の方法」といった本がごまんと並べられています。
みなさん、お金を稼ぐ、お金を貯める、お金を増やす、ということに対しては、並々ならぬ興味があるようです。
しかし、稼いだり・貯めたり・増やしたりしたお金を「どう使うか」ということに関しては、あまり語られません。そういった本も、ほとんど見かけません。それは、とても不思議なことではありませんか?
お金はあくまで概念であり、誰かと何かを交換するための手段であるはずなのに、自分がお金を所有すること自体が目的になってしまっているかのような印象を受けます。
150円のペットボトルのことを考えてみてください。
ペットボトルの背後には、何百人、何千人、何万人もの人たちが見えます。私たちと〝つながる〟社会が、そして世界が見えてきます。
私たちの使うお金は、単なる交換以上の「大きな意味」を持っているのです。
だからこそ、お金を使って何をするか、お金を通して何を考えるか、ということはとても重要です。それは、誰かのためになったり、誰かを応援することにつながったり、ひいては、自分の幸福感とも密接に関係してくるからです。
本書では、みなさんがどこかで避けていたかもしれない「お金」について、真剣に語っていこうと思います。
私はこれまで、プロの投資家として、株式の分析方法や起業のあり方などについて語ることは多々ありましたが、今回のように「お金」そのものについて真正面から向き合い、語る機会は初めてです。
しかし、大好きなお金の魅力を語ることができるので、ワクワクしています。
私自身が考える「お金」の本質、そして、そこから見えてくる「経済」「仕事」「会社」「投資」「世の中」のあるべき姿について、一緒に考えていきましょう!
(「はじめに」了)
※続きの「第1章」は後編にて掲載します!
★『投資家が「お金」よりも大切にしていること』詳細ページ
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