「がんばっても給料が上がらない」と嘆くあなたは、間違っている! 経済ジャーナリストの木暮太一氏は、「給料は成果や努力で決まるわけではない」と言います。今回は木暮氏が、資本主義経済のルールを基に「あなたの給料がどう決まるか」を教えます。
木暮太一/経済ジャーナリスト、経済入門書作家。1977年生まれ。慶應義塾大学を卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。著書は「難しいことをわかりやすく解説する」と定評があり、『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか』(星海社新書)『カイジ「勝つべくして勝つ!」』(サンマーク出版)などで売上累計125万部を超える
あなたの給料はどうやって決まる?
会社員である、あなたに聞きます。あなたは、自分の給料の金額がどうやって決まるかを知っていますか?
1.個人の成果や努力によって決まる。
2.景気や会社の業績によって決まる。
3・上司との関係によって決まる。
これらは、すべて違います。
正しい答えは、資本主義経済のルールと、そのなかで働く労働者が置かれる状況について知らなければ、導き出せません。
なんだか難しそうな話になってきたとお思いですか。大丈夫、カール・マルクスが書いた経済学の古典『資本論』に基づいて、私がわかりやすく解説しますから。
Photo by Matt Brown(CC BY 2.0)
まずは、資本論における「価値」と「使用価値」の違いについて説明しましょう。
マルクスいわく、「価値」とは「あるモノを作るのにどれだけの時間や労力がかかったか」。世の中で売られている商品のほとんどが、原材料に何らかの手を加えてできています。商品の「価値」は原材料、および原材料一つ一つにかけられた労力を全部足して計ります。
一方、「使用価値」はモノの「有益性、有用性」のこと。消費者がそのモノを使う意味があったり、役に立ったりするかどうか。
たとえば、洋服の「使用価値」は、「寒さやダメージから身を守る」「デザインで人目を引く」などです。同じ商品であっても、機能が追加されると「使用価値」は上がります。携帯電話で電子書籍をダウンロードして読めるようになれば、「読書」という新たな使用価値が加わったことになります。
Photo by MIKI Yoshihito(CC BY 2.0)
商品の値段は「価値」、つまり作るのにかかったコストを前提として付けられます。
そのうえで、「使用価値」が高ければ欲しいと思う人=需要が多く、需要が供給を超えると値段が上がっていきます。逆に、「使用価値」が低い商品は需要が少なく、供給すればするほど値段が下がっていきます。まずは、「価値」が値段の基準となっていることを覚えてください。
さて、会社員は会社からお金をもらって働いています。つまり、会社員は自分の労働力を会社に売っているのです。その値段が給料ですね。ということは、労働力はひとつの「商品」であると考えられます。
あなたの給料は商品の値段と同じく、「価値」を基準につけられます。あなたが労働力を会社に提供するためのコストとは、「明日も元気に働くために必要なコスト」のこと。たとえば「食事」「住居」「洋服」「ストレスを解消するための娯楽」などがありますね。家族がいれば「養育費」「教育費」「車」なども必要になるでしょう。
それらのコストが積み上がって、あなたの給料が決まっているのです。
Photo by Salary Negotiations(CC BY 2.0)
ではなぜ、医師や弁護士など、雇われていても給料が高い職種があるのでしょうか。
食事や住居といった生活にかかる最低限のコストは同じじゃないか、と突っ込まれそうですね。
それは、その職業に就くまでの高額な学費=コストが原価に組み込まれているからです。成果だとか、ましてや社会に役立つ尊い仕事だから給料が高いわけではありません。
ですから大卒出の初任給は、会社が採用したい人材のスペックにあわせて、「これくらいの学歴なら大体これくらいの原価(教育費)がかかっているよね」という相場観で決まっているのです。
これは資本主義経済すべてにおいて言えることで、新興国の給料が安いのは生活費が安いから。別に労働者の質が劣っているからではありません。
日本においても、デフレ経済が続いて外食や衣料品が安くなり、生活コストが下がれば会社は給料の金額を抑えるでしょう。資本論を読んでいれば当然わかることで、別にブラック企業が増えたというわけではありません。
労働者でいる以上、あなたは「価値」に基づく必要経費以上はもらえないと自覚すべきです。
大幅に給料を上げたいと本気で思うなら、資本家(経営者)の側に回るか、または独立して資本家と契約を結んでフルコミッションで完全に成果型の働き方を実現するか、どちらかでしょう。
三田さんは『ドラゴン桜』で、「ルールを作る側にまわれ」と言っています。
『インベスターZ』でも、就職活動を機に資本主義経済の仕組みを理解し、「資本家になる」という学生が出てきますね。
両方とも、「一生労働者でいる人生から抜け出す」ことを目指しています。
いい大学を出ていい会社に入れば幸せになれるというのは都市伝説のようなもので、完全に日本人の平和ボケ。資本主義経済のルールを知らないで、「こんなにがんばって成果を出しているのに思うように給料が上がらない」「会社が儲かっているのに自分たちに回ってこない」と嘆くのは筋違いなことです。
ぜひ資本主義経済のルールを学んだうえで、与えられた立場、環境の中でどう働くかをしっかりと考えてみてください。
☆もっと知りたい人はこちら。木暮太一さんが資本主義経済のルールを超わかりやすく解説!
『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星海社)