甲子園マンガのヒットメーカー・三田紀房が語る
「高校野球は未熟さが売りのエンタテイメントだ!」

『クロカン』『砂の栄冠』など、これまで数々の甲子園マンガの名作を描いてきた三田紀房。大の野球ファンであり、毎年、夏の甲子園にも足を運ぶ三田が、今年はこれまでにない球場の熱気に驚いたという。一体、高校野球に何が起きているのか? 2016年夏の甲子園から見えてきた、三田の「高校野球論」をお届けする。



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今夏の甲子園はずいぶん人が多かったなあ。もう何年も甲子園に通っているけど、連日、第一試合から満員が続くなんて初めてです。朝9時に行ったらもう「満員札止め」で、それでも途中で帰る人の空席を取ろうと行列ができていました。

もともと甲子園って、関西人にとっては手軽なレジャーなんです。野球見ながらお弁当食べて、お土産も買える。高校生の試合って9回裏での逆転サヨナラとか、予想外のことが割と起きるじゃないですか。甲子園に来るのは大体が庶民ですから、そういう逆転劇を見て日々の労働のうっ憤を晴らす。自分の人生と重ね合わせて、スカッとする。だから弱いチームが強いチームに勝つと拍手喝さい。判官びいきなんですね。

今年はその“レジャー感”がエスカレートした印象です。はっきりとした根拠はわからないですが、これは日本の消費者が「ライブで物事を楽しむ」ことに価値を見出すようになった表れじゃないかと思っています。いま、音楽業界ではCDは売れなくてもライブの人気はすごいでしょう。みんなが同じ空間にいて、同じ感動を味わう楽しさを求める人が増えているのではないでしょうか。

実際に球場で見ると、高校生の応援はすごくうまい。東邦高校(愛知)なんて、ブラスバンドの演奏もパフォーマンスも巧みで、盛り上げるのが上手。2回戦での八戸学院光星高校(青森)に対する大逆転劇は、まさに私が『砂の栄冠』で描いた通りの現象が起きました。

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八戸学院光星が4点リードで迎えた9回裏。ヒットを連打し追い上げていく東邦に対して、観客がどんどん引き寄せられていくのです。東邦は球場全体を味方につけ、『砂の栄冠』でいう「宇宙空間」が生まれました。

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相手にしてみたら、たまったものではない。一気に流れが東邦にいき、一時は7点差をつけた八戸学院光星は逆転サヨナラで敗退しました。高校生ですから、あの空気にのまれてしまうのは、仕方ないことでしょう。

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実際に甲子園を見ていると、ブランド校も無名校も、実力はあまり変わらないですよ。今の子はみんな体が大きくて、打球が飛ぶし、球の早い投手も多い。最後に勝つか負けるかは、ちょっとしたメンタルの差だと思います。毎年ベスト4、ベスト8に入るとか、強豪と言われる常連校は選手が自信を持って堂々としているし、そうじゃないチームはどうしても精神的ハンデがある。それを克服するには、1つ1つ実績をつくって、自信をつけていくしかないんですね。

その意味では、今夏、郷里の岩手県の盛岡大附属高校が2勝したのはとてもうれしかった。これも精神的なもので、岩手や東北の選手にとって、やっぱり甲子園はアウェーなのです。それに対して、関口清治監督がひたすら打撃に徹したのが良かった。高校生ってまだ子どもなので、監督がつくるチームカラーで大きく変わる。監督が腹をくくり、ヒットが出たら止まらない「わんこそば打線」と呼ばれた強力打線で実力あるピッチャーを打ち崩したことは、次への自信につながるでしょう。

そう、甲子園は全国から実力ある高校が集まるとはいえ、選手はみんな十代の子ども。アマチュアです。技術なんて大したことありません。そんな子どもの試合を見ようと、真夏の炎天下に大人が押し掛けるなんて、全世界を見渡しても日本以外にありません。海外では、NBAも大リーグも、プロの試合だからこそ人々がお金を払って観に行くのです。

甲子園ファンの中には、根っからの野球好き、エンタメとして逆転のドラマを見たい人、いろいろいるでしょうが、結局のところ日本人は、「未熟なモノ」が大好きなんでしょうね。例えば歌舞伎でも、3歳になると襲名披露といって役者が子どもを舞台に上げます。観客は高いお金を払って見にきて、「きゃ、かわいい!」なんて拍手をして応援する。ブロードウェイで同じことをやったら、大ブーイングですよ(笑)。しかし、これが日本人なんです。未熟なころから応援して、成長の過程を見守っていく。AKB48も全く同じ仕組みで大成功を収めました。最初から完成されたモノには興味がなくて、不完全な状態から成長していくストーリーを見たいのです。

高校野球はその典型です。発展途上にある選手たちが、全力を尽くして戦いながら成長していく。ときには弱小チームが強豪を倒すと言うドラマもある。それはおそらく、観客にとって人生の縮図のように映るのでしょう。

未完成な子どもたちのドラマ。高校野球はライブでの感動を求める人たちに、ある種のエンタテイメントとして、今後ますます人気が出るのではないでしょうか。

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砂の栄冠 第1話

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    三田 紀房(みた のりふさ)

    1958年生まれ、岩手県北上市出身。明治大学政治経済学部卒業。
    代表作に『ドラゴン桜』『エンゼルバンク』『クロカン』『砂の栄冠』など。
    『ドラゴン桜』で2005年第29回講談社漫画賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。現在、「モーニング」「Dモーニング」にて〝投資〟をテーマにした『インベスターZ』を、「ヤングマガジン」にて『アルキメデスの大戦』を連載中。

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