「アルキメデスの大戦」で三田紀房が挑む3つのイノベーション

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1巻・2巻の同時発売後、戦艦大和をめぐるこれまでにないストーリーが話題沸騰の『アルキメデスの大戦』。「面白い!大和にこんな切り口があるのかー」(映画監督:大根仁監督)など、発売直後からTwitter上で多くの声が寄せられている。三田紀房は、作家として『アルキメデスの大戦』をどう描こうとしているのか。本人の新作へのコメントを交えつつ、作品の魅力を解き明かそう。

『アルキメデスの大戦』は、三田紀房の作家人生で初の歴史モノであり、戦争モノである。
これまで甲子園、受験や転職といったテーマを通して人間の「成長」を描いてきた作者。
「東大入るなんて楽なもんよ!」と言い切って受験生の間で社会現象にもなった『ドラゴン桜』のように、身近なテーマに意外性を取り入れて描くのが、これまでの三田作品の特徴だった。

そんな作者が、「戦争」を描く?!
戦争マンガといえば、軍人のドラマや戦争の悲惨さを扱う作品が多い。
「三田マンガのイメージと違う」と、読む前から戸惑う読者も多いのではないか。

いったん、あらすじを紹介しよう。
時代は1933年。中国大陸進出をめぐって日本と欧米列強が対立を深める中、海軍では純国産最新大型戦艦の建造計画が持ち上がっていた。
その建造計画で、山本五十六は「図体の大きな戦艦はこれからの時代には必要ない」と言い、機動的でコンパクトな戦艦を提案する。
一方、海軍技術研究所所長・平山忠道ら保守派は、後世に名を残すような世界最大の大型戦艦を作る計画を推し、両者が対立する。

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(c)三田紀房/講談社

この争いで、山本五十六の懐刀として登場するのが、主人公の若き天才数学者・櫂直(かい・ただし)。大型戦艦を作るために保守派が不当に見積もる「建造費のウソ」を、櫂が数学の力で暴こうとするところから、物語が始まる――。

と、ここまで読んでお気づきだろうか。
戦争モノといっても、戦場でのドンパチを描く物語とは全く違う。舞台は海軍の中枢機関であり、描かれているのは戦争の「マネジメント」に携わる男たちの話だ。 やはり、三田マンガ。
これまで、甲子園をテーマにした作品であっても、『クロカン』では高校球児でなく監督を主人公にし、『砂の栄冠』ではさわやかな高校球児とは程遠い「腹黒い高校球児」を描いて読者を驚かせた。
今回も、戦争をテーマにしながらも、あくまで国家の「マネジメント」が切り口となっている。
太平洋戦争の象徴ともいえる戦艦大和の建造費は、一体いくらだったのか?そして、それは正当な額だったのだろうか? この問いだけでも興味深い。

キーワードになるのは、「カネ」。
投資をテーマにした『インベスターZ』は言うまでもなく、高校野球の監督が「俺から野球を教わりたいなら、金払え!」と言って型破りな方法で生徒を育てる『クロカン』、同じく高校野球で、キャプテンが支援者から1000万円を託されて甲子園を目指す『砂の栄冠』など、三田作品ではお金が重要な意味をもつことが多い。

そして、大型戦艦をめぐる「対立」がストーリーの展開軸になっている。
三田は常々、「マンガでも何でも、ストーリーの基本は対立をつくること」と言っている。『インベスターZ』では「お金儲けは悪」、『ドラゴン桜』では「詰め込み教育は間違っている」という世の中の価値観に対して、主人公が真っ向から刃向うのが痛快だ。『アルキメデスの大戦』でもまさに、大型戦艦の建造計画をめぐる「対立」がキャラクターの性格を引き出し、話を盛り上げている。

戦争というテーマを扱っても、「マネジメント」「カネ」「対立」という3つについては、これまでの“三田作品らしさ”を持っている。しかし、それだけではない。

三田紀房いわく、『アルキメデスの大戦』では、作家としてこれまで使ってきた手法に少し変化を加えている。自分なりの「3つのイノベーション」に挑戦しているのだ。

まず、主人公のキャラクター設定が新しい。
これまで三田は、『クロカン』の黒木監督や『ドラゴン桜』の桜木のように、社会の傍流を歩み、影を持ちながらもカッコよく自分を貫く主人公を描いてきた。ちょっとヒネくれたところがあり、自信満々で可愛げはないが見ていて気持ちがいい。そんな強さを持つ主人公から一転して、『アルキメデスの大戦』の主人公・櫂は青臭いほど一本気で、老獪な敵の罠にはまってしまいそうな危うさすらある。

三田は、櫂のキャラクターについて「何でも数学的に解明しないと気が済まない。常に正解を求めてその通りであろうとする、純粋で不器用な男」と語る。戦争という最も非論理的な現象に、最後まで論理的であろうとする櫂がどう立ち向かっていくのか――。大きな見どころの1つである。

☆マンガ2 のコピー

(c)三田紀房/講談社

次に、歴史モノへの挑戦である。
「史実を扱うのは大変だから、歴史モノは敬遠していた(笑)」三田だが、今回、『ヤングマガジン』編集部がチームとしてサポート体制を組み、実現した。櫂が優秀な数学者という設定も、編集部内に東大理学部数学科卒の編集者がいて、数学の知識面を支えてくれるのだと言う。「1つの作品ができるときというのは、そういうめぐり合わせもある。よし、一発やるかという気持ちです」(三田談)。

最後に、女性が多く登場するのも三田作品としては珍しい。
これも、「もともと女性の造形を描くのが苦手で……(笑)」、男性のキャラクターのほうが多くなりがちだったが、今回は戦争の背景にある社会を描くうえで、きちんと女性を描く必要があると考えたと言う。「戦争という特殊な社会状況は、男性だけでなく、女性も不幸にした。戦争というとどうしても男たちの戦いが注目されますが、それだけではない女性目線の戦争についても、できるだけマンガの中で描いていきたい」(三田談)。

『砂の栄冠』の連載を終えて息つく間もなく、三田紀房は歴史モノ・戦争モノという新ジャンルへの挑戦を始めた。しかも、『インベスターZ』との週刊連載2本をこなしながら、作家としても自身のイノベーションを起こし続けている。

これまでにない目線で戦争を描く、『アルキメデスの大戦』。
太平洋戦争開戦に向かっていく国家のマネジメントと、その大きなうねりに数学者として立ち向かう櫂の姿がどう描かれていくのか。今後、ますます目が離せない。

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アルキメデスの大戦

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