出井伸之が見通す「2027年の世界」(後編)

特別インタビュー・名経営者に聞く

【中編はこちらから】

組織に頼って生きる時代は終わった

 もし私がいま20歳だったら、どんな進路を選ぶだろうか。さまざまな可能性があるが、1つの選択肢として考えられるのは、「すぐに就職しない」ことだ。

 かつて1990年代にインターネットが登場し、情報の拡散スピードが飛躍的に高まった。ビジネスにおけるコストが減少し、イノベーションのサイクルが短くなるなど、インターネットの「第1の波」が社会を再定義した。そして2015年からの12年間では、「第2の波」がやって来る。インターネットがモバイルに移行し、個々人の手によってネットワーク化される。人工知能の開発や、グローバル化の進展とも相まって、さらに社会は様変わりするだろう。既存の枠組みの中で、スピードやコストが変化した「第1の波」に対し、「第2の波」では企業の形、企業と個人の関わり方、働き方など、あらゆる面で現存のシステムが覆される。

 これまでの「常識」が通用しなくなるのだから、「大学を卒業したら就職する」という概念だって、一度取り払ったほうがいい。そもそも、日本社会は急激な人口減少という現象にもさらされている。労働者としての若者の価値は当分上がる一方だから、焦る必要はない。 変化の真っただ中にあるときに将来の方向性を決めると、自分の可能性を狭める結果になりかねない。むしろじっくり腰を据えて、世界の動きを観察することだ。

 ビッグウェーブが来る前に小さな波に乗る必要はない。

 押し寄せる波をじっくり見て、一番大きいやつに乗るべきだ。

 そもそも、日本人は早く就職し過ぎると思う。大学を卒業して、そのまま会社に入って一生をその中で過ごすなんて、あまりにつまらない。まっさらな大学生を採用して自分たちが使いやすいように教育するという企業の考え方ももう古い。

 日本人は戦争中には国家に命を捧げ、戦後の高度成長期には企業に人生を託した。しかしいま、何かに自分を捧げる時代は終わった。これからは自分のために、自分の能力を頼りに生きる「個の時代がやって来る。

 個の時代には、自分がやりたいこと、得意なことをできる「場」をいかにみつけていくかが重要になる。円の中心にあなた独自の能力があり、それが求心力を持って周辺にさまざまな企業や人を呼びこみ、つながっていくイメージだ。

 私の知り合いに、エーザイの上席執行役員で医学博士の鈴木蘭美さんという女性がいる。彼女はガンの完治と認知症の予防をライフワークにしていて、経営陣として活躍しながらも、会社の中で自分のライフワークである研究を続けている。個人の能力を高めて、それを会社に売り、かつ会社からリターンを得るという働き方は、まさに次世代の働き方のロールモデルだと思う。

 こうした働き方を実践するには、自分の能力を客観的に知ってプロデュースできなければいけない。だからなおのこと、20代前半のうちは海外で人と交わったり、いろんなジャンルのことに挑戦したりして自分の能力を試し、かつ引き上げていく経験が必要だ。そうやって物事を見る眼を鍛えてから企業を選んでも遅くない。むしろ何も知らずに企業に身をゆだねことのほうが、リスクが大きいだろう。

 私はソニーに入ったばかりのころ、「3年おきに部門の所属変えを申し出る」というルールを自分で決めて、実行していた。1つの部門に3年もいると、チームにも仕事に慣れて居心地が良くなってくる。それをあえて断ちきって新しい現場でまた一から学び直し、仕事を覚えていく。楽なことではなかったが、会社の中でできる仕事を増やし、自分の価値を高める道を選んだのだ。振り返ってみると、当時から私は「会社のため」というよりは「自分自身の能力を高めるため」の働き方を、無意識のうちに選びとっていたのかもしれない。

 個の時代が来るといっても、全ての企業が衰退するわけではない。いくつかのグローバル大企業は生き残り、寡占的に富を得ていくだろう。しかしそれはほんの一部であって、競争力を失った大企業や中堅・中小企業は、専門領域を持つ個人と協力関係を築きながら共存していくことになる。

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